〜龍と刀〜
術式空間V
それから、音楽室・美術室・図書室や怪談が存在しそうな場所を順調に巡り、残すは脱出するだけとなっていた。
「なんだかんだでアイテムも取れたが……鍵、こんなにいらねえだろ?」
手元にあるのは、使用していない四つの鍵と、校長室の宝箱に入っていた一振り剣。最初の模造剣とは違い、ずっしりとした重みがあるので、本物だろう。
「や、やっと終わるんですね……」
春空にはキツかったのか、大分疲れが見て取れる。それもそのはず、肝試しを始めると言って出発したのが十時だ。それから何時間も歩き続けていれば当然、女子には辛いはず。
「ああ、そうだな。もう少しで玄関だ、頑張れ−−」
玄関に向けて一直線、数十秒もあれば到着という場所。二人の体を強烈な地震が容赦なく襲う。それから間もなく聞こえたのは声だった。
『逃がさぬぞ……!我が城からは、そう易々と!』
遠雷のように低く、威圧的で怒りの満ちた声。どうやら、魔王の城という設定は忘れられてないらしい。
ゆらっ、と一瞬だけ視界が揺らぐと同時。目の前に出現したのはブラックホールに似た漆黒の穴。声はそこから発せられているみたいだ。
「親玉の登場って訳か……しかも攻撃する気満々だな」
陽は言いながら、装飾の施された鞘から銀色に輝く刀身を抜き放つ。まさしく勇者の剣と銘打っても良いような剣だ。
『再びこの姿を取らせた事、後悔するが良い!人間め!』
雄叫びを上げ、ブラックホールは形を変えて行く。縦は天井ギリギリ、横は窓を突き破る。その姿は、全身赤い鱗(ヨロイ)で身を包み、ボロボロの翼を目一杯広げ、鋭い爪(ヤイバ)を携えたドラゴン。西洋竜だ。
まさにボスに相応しい。
「コイツは本気でやらないとマズいな。春空、何とか俺が引き付けてる間に脱出してくれないか?一人でも逃げれれば大丈夫なはずだから」
「でも龍神さんは……」
「ここは勇者様に任せとけば良いさ。ゲームなら、勇者は負けない」
武器が白銀じゃないというのが不安の種であるが、ただのアトラクションなら死にはしない。
一人でも逃げれれば、というのは根拠は皆無。ゲームだったらチームメンバーの内一人でも脱出が出来れば全員が付いていく仕組みだから、というだけ。
「……始めようぜ、竜とやり合うのは気が引けるがな」
剣を中段に構え、いつでも動ける体勢に。ドラゴンもそれを感じたのか、大口を開けて威嚇。
『図に乗るなァ人間!!』
「何だ、意識持ってんのか?難易度が跳ね上がったな……」
こうして決戦の火蓋が切って落とされた。
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