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アレイスター
「聞いてなかったよ……禁書爆弾(ダイナマイト)があんなのだとは、さ。俺もこのザマだよ」

ドアも窓も階段もエレベーターも通風孔すら存在しないビルの一室で、ところどころに包帯を巻いて怪我の処置をしている、パトリス=ネビルは空中に浮かぶ映像から目を離してつまらなそうに呟いた。
今のモニタに映っていたのは昨晩の芦澤の暴走の様子だった。

巨大なガラスの円筒の中で逆に浮かぶアレイスターはうっすらと笑っている。
返答はない。その妙に嫌な静寂に、かえってパトリスはせっつかれるように言葉を絞り出す。

「なんにしろ、俺たち人間は駒のように操られ、よくわからないけど、アンタのくだらない実験とやらに付き合わされていた、っていう訳だね。まったくアンタは化け物か?」

アレイスターは変わらずうっすらと笑いを浮かべている。
と、しばらくしてそれまで黙っていたアレイスターの口が開いた。

「仕方がないであろう?私も知らなかった。あれほどまでとはね」

アレイスターは全く表情を狂わす事なく淡々と話す。

「しかし、どちらにしろ、制御しようと思えばどうとでもなる――扱いは少し精密な作業にはなるがな」

くそったれ、とパトリスは口の中で毒づいた。アレイスターの人間に関する取扱いというのは常人のそれとは、非常に大きく異なる。

「そこまでして、あの爆弾を掌握する事に意味があるのかい?」

パトリスの疑問の声に、アレイスターは笑みを崩そうとはしない。

「魔術師どもなど、あれが掌握できれば取るに足らん」

「な……に?」

パトリスは何も知らなかった。しかし、明らかにアレイスターに敵意と、それ以上に得体のしれない恐怖が浮かび上がる。

「お前は……どうするつもりなんだ?」

「さてね」

アレイスターは更に笑みを深くして継ぎ足す。

「今のままでは、どうするとも考えていない。しかし、世界が狂い始めたとしたら、それがわかることになるだろうな」

「………ふん」

パトリスは黙り込んでアレイスターから目を反らした。得体の知れない恐怖が彼を徐々に侵食しているのだ。

「どちらにしろ、今回の件で幻想殺しと吸収放出の具合はよくわかった。感謝はしている」

しかしパトリスにはわかっている。利用されただけで感謝などには程遠いということが。

「一つ、教えてやっても構わんぞ?」

パトリスは面倒臭そうにアレイスターの方向へ振り向く。その時、アレイスターは変わらず笑っている。

「虚数学区の制御にかかせぬのだよ。あれは、な」

アレイスターの笑みが深まった。パトリスはそれに怒りに似た感情を覚えてすぐに振り返った。

「お前は何を考えている?だが、答えなくても構わないよ。やりたい事はやってみろ。だが、あの芳野とかいうガキは甘く見ないことだね?ぶっつぶされるかもよ?世界の全てがさ」

そう言い残してパトリスの体は暗闇に消えていった。

「ふむ。私の世界などとうの昔に壊れているよ。あの突然変異と同じように」


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