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最後の
夏喜は、それだけ言った。
腕を頭の後ろで組んで、なんとも気にしてはいない様子で窓際に目を向けて。
芦澤の選択が間違っていただの正解だのと、どちらとも夏喜には判断できない。
だが、芦澤が正しいと思っていたならばそれでいい。
夏喜はそう考えていた。

「まぁ、」

夏喜が呟くと、芦澤は黙って夏喜の顔を見た。
一瞬歓喜のような表情を浮かべたが、芦澤の『申し訳ない』というような気持ちを夏喜はなんとなく感じとっていた。
それが耐えられなくなった。

「お前にも何か目的があったんだろ?で、それが叶ったんならいいんじゃないか?お前がそうしたいという思いがさ、通じたのかもしれないし、それは普通に喜ぶべき事だと思うんだ」

芦澤はしばらく黙っていた。
やがて、ポツリと泣き出しそうな子供みたいな声で、言った。

「……、私は自分のせいでいろいろ傷付けたのに、ですか?」

それでもさ、と夏喜は歯を剥き出しにして、笑いながら言った。

「誰がどうなっただの、自分が何をしたとかそんなの関係ないじゃん?とにかく望みが叶ったんだからそれで良いだろうさ」

芦澤は息を飲んだ。
この人はなんなんだ、わからないと思っていた。
こんな人間は始めてだ。
単なる直線的な人間なのかもしれない。
しかし、何故か胸の奥が熱かった。それが上へ上へと込み上げてくる。
次第にそれがまぶたの奥からジワリ、ジワリ、と湧きだして来た。

こんな人間は始めてだ。だからどんな表情をしていいのかわからない。

「あの……こんな時はどんな表情をすればいい……ん…ですか……?」

だから、素直にそれを訪ねた。

うん?と夏喜は芦澤の言葉を確かめて、それから答えた。

「笑うのさ」


その声の病室から覗く空は今日も快晴。
世界は変わらず、ただそうあるように、動いている。

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