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病室
「何ともないね?」

夏喜が目を覚ますと、そこは大学病院の一室だった。
その病院のベッドの横に居る、小太りの医者はそう言った。
聴診器を夏喜の胸に当てている医者は、自分がカエルに似ている事を自覚しているのか、胸元のIDカードに小さなアマガエルのシールが貼り付けてある。

「……」

「酷い大ヤケドだったから腹部の後は残るかもしれないよ?」

夏喜は気を失って眠っていたらしい。
その原因はハッキリと覚えてはいないが、物凄い轟音と衝撃が体を突き抜けたような感じをしたのは覚えている。

「雷の傷みたいだったけど、昨日の天候でなんで雷を受けるんだい?」

「……、」

夏喜は上手く答えられず、ベッドの上で包帯の巻かれた左手に目を落とす。
記憶がまだ少し混乱しているが、確かに左手が何かを吸収したのは覚えている。
終わった……はずだ。

「それじゃなんともないみたいだし、僕は戻るね?」

「……ぁ、俺、どんくらい寝てました?」

「う〜ん、昨日の夜で三日だから、三日と一晩だね」

カエル顔の医者は半分苦笑いを浮かべたような顔でそう言った。
そうなるのは当たり前かもしれない。
三日も寝てました、といえば、かなりの重症ということも考えられた。この医者も、それなりの対応をしていたに違いない。
それなのに当の本人がこんなに何もなかったようにピンピンしていれば苦笑いも浮かべたくなるという物だろう。

「そうですか」

夏喜は軽く苦笑いでそう答えた。

「他にはないね?」

そう聞かれて、ふと昨日の事を思い出したが、この医者は関係ないからわかるはずもない、と判断して飲み込んだ。

「ああ、はい」

「昨日少し厄介な患者が来てね、僕も大変なんだよ。記憶喪失というね。だから立てこんでる。だから行くね?」

そう言ってカエル顔の医者は病室から出て行った。

「記憶喪失ねぇ……そりゃ大変だ」

夏喜はふと呟くと、上半身だけ起こした身体を重力に預けてバタンと倒す。

「がはっ!」

その瞬間、夏喜の身体は破壊された。
全身ボロボロの中でそんなことをすれば、普通に考えて無事ではすまないだろう。
夏喜はヒクヒクと震えている。
ナースコールをしようかと、本気で思っていた。だが、その動作は打ちきられた。ボタンを押そうかと思ったと同時に誰かが病室に入って来たからだ。
明らかに染めたのわかる茶髪の高校生、高宮だった。

「フン、なんだかんだ言って元気なんじゃねぇの。様子を見に来たんだが」

「お前、ピンピンしてんだな。足は治ったのか」

高宮はむっと一瞬口を曲げた。
聞かれたくなかったのかもしれない。

「ハッ、実力とだけ言っておこう」

「何がだ?」

「ハッハッハ、全てがだ」

「もう一つ、なんで今来た?目が覚めたのがなんでわかる?」

高宮はさらに口を捻る。高宮らしく、不敵に笑ってはいるが、顔のそこらじゅうから汗が流れていた。

「それも……実力だ」

「なんかおかしいな?」

夏喜は高宮に純粋に疑問を問いかけていただけなのだが、高宮は何故か動揺していた。夏喜にも簡単にそれが読み取れる。

「高宮ぁ、見苦しいの、隠さんでもよか……いいのに」

瞬間、どこかで聞いたような声が聞こえてまた誰かが入ってきた。語尾を言い直したのが印象的だった。
誰だ?
と思って目を向けた時は、夏喜は目を大きく見開いた。

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あきゅろす。
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