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正体
秒速百メートルの速度で勢いがついた夏喜の体はそのまま勢い余ってゴロゴロと転がった。
それと同じように芦澤の体も転がる。そして、うつ伏せになって静止した。

「……ッてぇ……終った、か?」

夏喜はヨロヨロと、痛む体を起こして芦澤の様子を確認する。
しばらくじっと様子を伺っていたが、芦澤はピクリッとも動かない。夏喜はその様子を見て、気が抜けたような表情と、大きな息を吹く。

「どうにかなったかも……なぁ、高宮?」

夏喜は振り向いて、高宮へと向かって足を進めた。

「フンッ、よくやったといいてぇが……情けねぇ」

高宮はそう言いながらも、わずかに笑っていた。
それに軽く苦笑いを返そうとした夏喜だが、ふと足が止まり、その表情が凍り付いた。

「ッ……?!」

そして、恐怖を感じた夏喜は振り返った。
その瞬間、夏喜の瞼は大きくつりあがった。
高宮もその様子を見て、夏喜の視線の先に目をやる。すると、自然とギリッと歯から音が鳴る。
その視線の先には、芦澤が立っていた。
全く無表情で、先ほどのダメージなど全くないような様子で。

「まだ終わってなかったというのか……」

「ハッ、知らねぇ……なんなんだよ……」

高宮も今までの芦澤の様子は、自分なりに考えて解析する事ができていた。すべて自分の中では常識の範囲内だったからだ。
しかし、今までどうりにはいかなかった。

いま立っている芦澤の様子は高宮の常識を超えていた。
言葉で表すとすれば、異形。その言葉が当てはまるような姿。

「ふ……なんなんだよ」

夏喜からは笑みのような表情がくみとれた。
しかし、それとは裏腹に恐ろしいくらいの汗が身体中から溢れていた。
それもそのはずである。異形の物が夏喜の目の前にあるのだから。
芦澤の身体中からは青白い光が、ぼんやりと暗闇に放たれ、赤く染まった目がそれにさらなる恐怖をにじみ出していた。
そして、彼女の体の周りには、数字とアルファベットが回るように浮いていた。
まるで脳内のコードが空中に写し出された、というように思える。
それが芦澤の禁書爆弾という能力の正体なのだろう。

「くくく…、は、ははははははは」

この状況であれば、最も恐怖を感じているのは間違いなく夏喜であるはずなのに、夏喜は笑っていた。
今まで、能力の得体が知れず、芦澤の止め方がわからなかったが、今、目の前に能力の正体がある。それを潰せば、芦澤は止まる。夏喜は確信を得た。それ故の笑い。

「ははは、やってやるよ……止めてやるよおおお!」

夏喜は再び左手を握り締めて大きく地面を蹴る。
大きく振りかぶった左手は芦澤を捉えようと物凄い速度で芦澤に近づいてゆく。

「お前は俺が止める!!」

「…………」

しかし、夏喜の声は全く芦澤に届いている様子はない。
全くの無表情で、ボソボソと口を高速で動かしている。
それは人間の頭では理解できない『何か』。
突如、炎の壁が夏喜の目の前に立ちはだかる。

「くそっ!邪魔!」

夏喜はそれを邪魔者のように軽く払い除けた。
しかし、それと間髪置かずに、アスファルトの弾丸が彼の図上から遅いかかる。
しかし、かかとからの炎の噴射を利用してすんでのところでそれを避けた。

しかし、それで終わらない。今度は追い討ちをかけるように雷撃が次々と芦澤から連射される。

「くそっ、近づけない…」

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あきゅろす。
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