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真正面から
吸収放出と禁書爆弾は月明かりに照らされた夜に激突した。
夏喜は強く左手を突き出し、芦澤は無表情で右手をその左手向けて突き出す。両者がそのような単純な行動を行っただけだった。
だが、それによって生み出された余波は甚大だった。
数瞬遅れて、爆風が発生する。
ゴバッという重い音が響き、衝撃波がドーム状に広がる。それによって辺りの建物やその場にいた半径50メートルにわたる生物全てが激しく振動させられた。
その場にいた小さな羽虫がどれだけ巻き込まれ、命を落としたことか。
それは、夏喜が芦澤を無効化する為に抵抗が生じていたためにある。
あまりにも強い能力の場合のため、その瞬間にスムーズに無効化できずにいたのだ。
その抵抗値が衝撃波となっていた。
その衝撃波が広がった頃、夏喜の左手が勢いよく後ろへ吹き飛ばされる。

「が…………!?」

ぱたぱた、とアスファルトの路上にいくつかの血の珠が落ちる。
まるで拳銃でうでを撃ち抜かれたような衝撃に、夏喜は思わず自分の左手を見た。
元々傷付いていた左手の傷口が広がり、ボタボタと音を立てて鮮血がアスファルトの上へ落ちていく。
そして、顔の前に持ってきた左手のさらに向こう側。

無効化されるに至らなかったが、芦澤を止める多少のきっかけにはなっただろうか、と夏喜は少しの期待を抱いたが、その期待は一瞬で打ち砕かれた。
ユラリっと体を揺らした芦澤の目が、光を失った目ではなくなっていた。
しかし、その目は人間の目ではなかった。
彼女の目は赤く光り、その目の中には無数の数字が目の中いっぱいに写っている。
それは能力のコードなのだろうが、何のコードなのか、夏喜にはわからない。
しかし、

(まずい………)

本能的に夏喜は危機を感じ取って反射的に体が反応する。
その瞬間、芦澤の両目が恐ろしい程に輝きを増し、無数の光が夏喜に襲いかかった。
かろうじて直撃は避けたものの、
ゴッ!!という凄まじい衝撃と共に夏喜の体は向かいのビルの強化ガラスに激突する。
そのガラスが小さくへこみ、円形になってヒビがガラスを駆け巡った。
その瞬間、夏喜の体もヒビが入って砕けてしまいそうな感覚を味わう。
その夏喜の口の中に鉄臭い血の味が混じっていた。

「――警告します。危険要素、芳野夏喜は最重要危険要素に変更。コードの保護のため、芳野夏喜を排除します」

夏喜は前を見る。
そこには相変わらず赤く光った目で、よろよろと不気味にうごめく芦澤がいた。
彼女の目は目であって人間のそれではない。
その目がジッと不気味に夏喜を見据えていた。無数の数字を眼球に浮かべて。

「180万もの能力を操るって、こういう事か……原理がわかんないけど、そのものの能力って訳じゃないだろうな……」

夏喜は推測を立てた。ベクトル変換と呼ばれるレベル5。
噂でしか聞いたことはないが、その能力は触れただけで人を殺せるはずだ。また、ベクトル変換という内容から考えれば、間違いなくそういう事にも繋がる。
撥ね返すだけの反射だけではベクトル変換とは呼べないだろう。
しかし、殴る、蹴るなりされたパトリスや芦澤は相当のダメージを受けているが、絶命していない。
手加減していると考える事は、できなくはない。
だが先ほどから繰り返している、芦澤の『排除』という言葉。
『排除』するのであれば手加減など無用のはずである。また、今の芦澤にそのような意識が存在しているとか考え難かった。

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