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朧vs禁書爆弾
「っ……芦澤海澄……いや、禁書爆弾か……こちらの呼び方の方が正しいようじゃな」

粉塵が次第に晴れてゆき、中から人影が現れる。それはパトリスが目的として探していた禁書爆弾だった。それは無表情で朧を見据えている。朧はその視線に鳥肌が立ち、自然と身構える。
その朧に向けられる芦澤の無表情の冷たい言葉。
彼女はそのまま淡々と話し始めた。

「対象を確認、重要危険要素、魔術師パトリス=ネビルの排除に危険要素あり。危険要素の排除を優先します」

そして、その言葉を言い終わった瞬間、ドウッ
と何かが砕ける音が鳴り、朧の目の前には芦澤がいた。あまりにも一瞬だったため、朧はピクリと僅かに動くのが精一杯である。
その朧に芦澤がトンッ軽く触れた。その瞬間ゴウッという音が鳴って、朧の視線が吹き飛ぶ。彼女の身体は1m程宙に浮き、何メートルもゴロゴロと転がる。
そして、3m程した所で止まったが、追い討ちをかけるように芦澤の頭の上には芦澤が飛び上がっていた。その朧めがけて揃えられた両足は、鉄槌として彼女の頭蓋を粉砕しようとする。

「……っ!!」

しかし朧はすんでの所で身体をわずかに反転させて直撃だけは防いだ。
しかし芦澤が着地した場所のアスファルトが砕け、飛び散り、それが無数の弾丸となって朧の身体に着弾する。

「――――が、あああああぁあぁあぁ」

それを受けた朧は再び吹き飛び、地面を何回かバウンドした。
そしてしばらくした所で朧の身体は動かなくなる。それと同時に凄まじい攻撃を繰り返していた芦澤の身体も一時停止した。
しかし、所詮一時停止。すぐに再び動き始める。

「危険要素の一時的排除が完了しました。続いて重要危険要素の排除に再移行します」

そして芦澤の足は朧がパトリスをおろした場所へと向かい始めた。カツッカツッとゆっくりと、カウトダウンの秒針のような音をたてながら。

「や……やめ……」

朧はそれを阻止しようと立ち上がろうとするが、腕を動かすのが精一杯のようだ。
届くはずもない芦澤向けて手を伸ばしているだけだ。

パトリスは仲間のためにここまでした。同じ必要悪の教会(ネセサリウス)の仲間の神裂火織とステイル=マグヌスの為に、禁書目録を救うことができれば、どんなにいいことか。それを願って学園都市に侵入した。
それなのに、いま、朧の目の前でパトリスは殺されてしまうかもしれない。
まだ、何も終わっていない。
そう思うと朧の目からは涙が滲み出てきた。
しかし、パトリスは動かない。芦澤の足がゆっくり、ゆっくりと彼に近づいてゆくだけである。

(パトリス、おぬしは言ったじゃろぅ……『仲間の為なら自分の命は惜しくない』と、でも、ここで死んだら仲間の為にも自分の為にもならないじゃろうが!)

朧は強く唇を噛み締め、その唇から血が滲む。
拳に力を込めて立ち上がろうとするが、それでも身体は動かない。
そうしている瞬間にも芦澤は、禁書爆弾はパトリスに一歩一歩近づいてゆく。

そして、パトリスと芦澤の距離が0になった時、パトリスのタイムリミットとなった。
朧はそう思って、額を強く地面に叩き付けた。

ある二つの存在によってそのタイムリミットが伸ばされたとも知らずに。
朧は思い込んでいた。芦澤がここにいる時点であの二人は無事ではない。殺られてしまったのだと。
しかし、実際に二人は現れた。
つまりは、そういう事だった。

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