爆弾…
高宮はその夏喜の強く握られた腕を見て、そのまま目線を上へ動かして夏喜の表情を見る。
その夏喜の表情は腰が深く据わった決意の表情。
「ハンッ、最初っから思ってたがよ、テメェはマジでくそったれの馬鹿野郎だぜ」
高宮の言葉を聞いた夏喜は鼻で小さく笑って、
「それは、お互い様じゃないのか?」
振り返りざまそう言った。その言葉に高宮は目を丸くして、少しの間静止する。その後に、高宮も小さく鼻で笑った。
「キヒッ、言えてらぁ」
そう呟いて高宮は未だに虚空の夜空を見つめて止まっている芦澤を見据える。それに吊られるように夏喜も芦澤の方向へと目線を移した。
芦澤は未だに下を見ている。まるでパトリスの生死を確認するかのように。その表情はどこか不気味に笑っているかのように見えた。これが芦澤の意思による表情なのか、または、コード化した能力の一方通行から引き継いだ表情なのか、どちらにしろ学園都市の夜風になびく長い黒髪と芦澤の表情。それがなんらかの恐怖を演出していた。
しかし、夏喜と高宮は生唾を恐怖と共に呑み込んだ。そしてふたりともジャリッとコンクリートの地面を踏みしめ、
「ハッ行くぜぇ!」
高宮の言葉に夏喜は首を縦に振って無言で地面を蹴った。
二人は地面を蹴って芦澤との距離を縮めようとした。
その時だった、今まで止まっていた芦澤の体が動いたのだ。
走っていた高宮と夏喜の表情が強張った。このタイミングで動き出すとは思ってもいなかった。このまま攻撃に移られたら間違いなくすべてが終わる。一瞬後には一方通行の攻撃が襲う。
そう覚悟を決めた二人だったが、芦澤は振り返る動作はしなかった。
((――?))
二人が疑問を思ったその瞬間―――、
芦澤が病院の屋上から消えた。
ほんの一瞬の出来事だった。
「……なにがどうなっとる……?パトリス、おぬしが何が知ってるんじゃな?」
意識を失っているため、朧の質問に対する返答はない。
朧はパトリスを背負っていた。身長150前後の彼女であるため、身長180超のパトリスの足を半分引きずってしまっている。
「パトリスをどうやればこんなにできる?」
朧は空を見上げる。実際にはパトリスが落ちて来た元の場所、病院の屋上を。
たまたま、朧が病院の下を通りかかり、パトリスの体を受け止めたからよかったものの、そうでなかったら彼は確実に死んでいた。
「高宮がまさかここまでするはずはなかろう」
その瞬間、朧は屋上で何かが小さく動くのが見えた。
それは、長い髪をなびかせ、無表情で下を見下ろした少女。
しかし朧にはそれがとてつもなく恐ろしい表情に見えた。
(っ――マズイ!)
瞬間、その少女が屋上から、朧向かって迫って来る。
彼女は精一杯のスピードで物陰へと移動し、パトリスをその場へ下ろした。
その瞬間鳴り響く、発破現場にでもいるかのような爆音。
朧はパトリスから離れるようにし、なおかつその爆音の元へと近付いた。
その場には粉塵が舞っているが、落ちてきた少女は間違いなく生きているだろう。
普通の人間ならばその場に血のシミを作るだけだろうが、いまこの場には粉塵が舞っている。
これはアスファルトを砕いた事による物だ。少女が落ちたその場には大きなクレーターが出来ている事だろう。
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