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芦澤海澄2
「そんな……」

芦澤の肩が小さく震え始めた。
彼女は数年前にある話を聞いていた。
イギリスには禁書目録という10万3000冊もの魔導書を全て記憶し、脳に保管している少女がいるということを。
その子はある理由で1年置きに記憶を消さなくてはならないらしい。
それを芦澤の無能力(レベル0)の読み取り(コードリーダー)があれば、中和できる。もしかしたら少女を救えるかもしれない。
そう聞かされた。
だから芦澤はこころより承諾した。無能力の自分が人の役にたてるのならば、と。
なのに、今まで何年もの間、彼女の禁書爆弾は一度も使われることはなかった。
1年置きに記憶を消すのなら、せめて一度くらいは使われてもよさそうなのに。
ではこの頭に詰め込んだ魔導書のコードはなんのためにあるというのか。
使われないだけならまだしも、自分がこんな魔導書コードなどというものを持っていたために二人の少年はこんな目に合ってしまった。
全てが自分のせいだ、と芦澤は自分を呪いたくなる。

芦澤はその場で膝を着いて小刻みに震えている。
その場から動く気力さえも全てが空になってしまったかのように。

「ふん、いつかはこうなるってわかってなかったのか?」

芦澤は答えない。
いや、答えることができない。

「いつかはこうやって狙われるんだ。そのくらいの覚悟は持っておきたかったね」

芦澤の体がピクリと反応するように動いたかと思うと、彼女の震えが止まった。
その時の芦澤の体からは全ての力が抜けていた。膝をペタリとついたまま、腕をダラリと垂れ下げてしまう。

「まぁ、キミがどうなろうとどうでもいい。ただ、後ろのが怖いんからささっと終わらせてやる」

パトリスはカツッと芦澤に一歩近寄る。
彼は芦澤の頭に、スッと右手をかざしたかと思うとぶつぶつと何かを唱え始めた。

「主の中に住まいし鼠――」

そのかざした手を何かを掴むように握り、

「――主をを捨て――」

何かを引き抜くように、ぐいっと芦澤の頭から手を離した。

「出てきなぁ!鼠共ォ!!」

その瞬間、芦澤の体がビクンッと跳ね上がる。
ダラリと垂れ下がった腕が伸び、指先がガクガクと痙攣を始めた。
その痙攣は指先、肘、腕からそして最後には体中に広がる。

「ぁ……が……ぁ」

芦澤の目が何か信じられないような物を見たかのように大きく見開かれ、苦痛を感じているのか、涙もジワリと滲んでいた。

「――がああああああ!!」

そして、その苦痛が頂点に達した時、芦澤は頭を両手で抱えてえび反りになる。

「ふん、やっぱりいい気はしないね、人の苦痛を聞くってのは。ま、これしか俺は方法を知らないから仕方ない」

「はぅ……ハッ……ああ」

えび反りになった後、芦澤は頭を抱えたままその場にうずくまり、しばらく痙攣を続け、そのまま動かなくなった。

「は……フフフ……成功だ。これでしばらくすれば………ん?」

パトリスは足元に違和感があった。
その違和感に気づき、違和感があった場所に意識を向けると、

「や……めろ」

そこにはパトリスの足をガシッと掴んだ高宮がいた。
膨大な高圧電流が体を通り抜けたジュール熱で体のいたるところに火傷を負って、立つことさえも難しそうなボロボロの高宮が。

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あきゅろす。
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