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ルーン
高宮は再び足首を捻ろうとした。そうしようと力を込めた。
今までと同じなら、瞬時にコンクリートの装甲が出来上がっていただろう。
そう、先ほどと同じであれば。
しかし、異なるう所があったために高宮はその場に膝をついてしまった。捻ろうと足首に力を込めた瞬間、ダーツによって傷付いた足から果汁が溢れるかのように血が吹き出し、体の芯を激痛が貫いた。

「おやおや、どうしたい、高宮?」

「はっ……はっ……パ…トリス」

呼吸の方法までも忘れてしまう程の激痛。
やはり立ち上がるのだけでもかなりの無理があったようだ。
その高宮にパトリスは不気味に笑いながらカツッカツッ、と靴の音を立てながら、ゆっくりと高宮に近付いてくる。
右手に持った一本のダーツを虚空の夜空に掲げて。

「剣が折れたら俺の負けというわけじゃあないからねぇ。俺には、他にもいろいろあるのさ」

そして高宮に狙いを定めた。
その時、高宮は見た。ダーツに文字が書かれている事に。魔術に使われる特殊な文字、ルーン文字が。

(ハンッ………やっぱ『人払い』だけじゃなかったてか)

高宮は地面に手をつき、苦笑いした。
この瞬間、先ほどまでの高宮は死んだ。
尽くす事のなくなった高宮は諦めたように顔を上げる。
その時、パトリスはぶつぶつと小さく何かを唱えていた。

「雷よ――」

パチッとパトリスの手で何かが弾けた。

「――具現化されし雷、槍となり、悪魔を有るべき姿へ回帰させよ――されば―」

その小さな高いパチッという音は次第にバイブ音のように低くなってゆき、パトリスの右手で光を生じさせ始めた。
超高電圧を連想させる青白い光を。

「――悪魔に感ずる事なき苦痛を」

パトリスがスウッと小さく息を吸ってダーツを突き上げた右手に力を込める。
先ほどの言葉、言い換えると、痛みを感ずる間もなく殺す。それすなわち――即死。

それ故に、パトリスも緊張しているのだろう。今は敵とはいえ、同士討ちとなる事には変わりはない。
だから、一瞬だけ目を閉じた。
その一瞬が終わった時、パトリスの手はダーツを投射する動作に入る。

「すまないねぇ高宮ぁ!ここで終りだ」

雷を纏ったダーツは雷の槍となり、高宮に的を確実に絞って直線的に進む。
もう止める方法はない。
ダーツを取って受け止めたとしてもその次には超高電圧の雷が待っている。
助かるにはダーツを取り、かつ雷をも打ち消す。そんな都合のいい方法しかない。
そんな、まるで幻想のような方法しかない。

(ハハッ、終わった……か。ダメじゃん俺。所詮スパイに使われるような人材だもんな……)

高宮はあきれた用にして小さく笑った。



「諦めんなよぉ!」

その高宮に何処かから声が届いた。
それに気づき、目を開けると爆風が高宮の髪を揺らす。
何かが彼の横を通り過ぎた。
迫るダーツの速度を上回る速度で一人の人間が。

直後、ダーツと人間は衝突した。ダーツは彼の左手に握られ、雷など感じさせもしないただのダーツに戻っていた。
雷の槍をただのダーツに戻した。その人間は、芳野夏喜、吸収放出の異能力者。
異能の力であれば、どんな力も吸収し、それを自分の力に変えて放出する。
そんな都合のいい、まるで幻想のような能力者。

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あきゅろす。
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