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三度
高宮の喉が砂漠の用に干上がっていた。
先ほど高宮の目の前に沈んだはずの男が立ち上がっていた。義手から生えた剣は折れ、体中から血が流れているにも関わらず、体の芯をずらすことなく、高宮を見下ろしていた。

高宮は後悔した。パトリスにコンクリートの破片をぶつけた時、コンクリートが音速を超えた速度で公転していれば、それのまま走って突進すれば、一瞬でもパトリスにコンクリートが触れていれば、パトリスの体は弾け飛び絶命するか、助かったとしても生死の間をさ迷う事は確実だ。
あの時、高宮がコンクリートの破片の回転の向きを変えたりしたためにコンクリートのスピードと威力が半減してしまったのだ。

(ちっくしょう……なんでこんなに甘ぇんだよ)

高宮は『殺せ』と命令されたりすれば、迷いもなく人を殺せるような人間だ。
なのに高宮はパトリスに情をかけてしまった。
どこか殺すのが嫌だと思ってしまった。
今は敵であっても味方である事があった魔術師パトリス=ネビルを。
高宮はギリッと歯を食い縛り、何かを掴むように拳を握り絞めた。
そして顔を痛みの元へ手をそえる。

「あ、ぐ……ヒハハッ」

痛みの元はパトリスのダーツだった。
両足の太ももとふくらはぎに突き刺さったのはパトリスが腰に付けていたダーツケースから取り出したダーツだった。
高宮はそれを強く握り、一気に引き抜いた。
一本一本引き抜く度に、高宮の足から果汁のように血が吹き出し、貫くような激痛が次々と彼を襲う。
普通なら間違いなく、のたうちまわってしまうだろう痛みだ。抜いた直後は呼吸さえもままならなくなる。
しかし、高宮は歯を食いしばって、ゆっくりと立ち上がった。
高宮は倒れない。
高宮の足元に倒れた芦澤をチラリと見てパトリスと向かい合う。
高宮の足にはダーツによる無数の傷があり、少しでも筋肉に力を込めようものなら、あちこちから血が吹き出しそうだった。
その足にはもうまともな力が入らず両の脚はがくがくと震え、今にも膝から崩れ落ちそうだった。
それでも高宮は倒れない。何があろうと絶対に倒れない。

「…………………………ッ」

高宮は声にならない悲鳴のようなものをパトリスへとぶつけ、芦澤の盾にでもなるように両手を広げる。

パトリスは背中から何かがぞわぞわ、と駆け上がるのを感じた。そして、体中に力がこもってゆくのがわかった。
それが恐怖によるものなのか、あるいは武者震いのようなものなのか、それはわからないがパトリスは何かひとりでに笑いが込み上げて来ていた。

「面白いよ、高宮」

パトリスはダーツケースからダーツを引き抜いた。

「俺にとって、最高に面白い存在だよ、キミハハハァ!!」

パトリスはダーツを片手に高宮へと向かってダンッ、と爆発的に地面を蹴った。
高宮はそれに合わせ、身を屈める。
足に力を込めるだけで、足から全ての血が蒸発してしまうような気がした。
少しでも他の事を考えようものなら、痛みで意識が飛んでしまいそうな気がした。

それでも高宮は向かい討つ。
足元に倒れる芦澤に指一本触れさせまいと。
三度、二人の魔術師は激突した。

「キハハハッ、こいやああああああぁ!」

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あきゅろす。
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