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潜在能力
何が起こっているのかはわからない。
ただ、これが夏喜の本来の力なのかもしれない。
人間は自分の意思で力を出せるのはどんなに全力を出したとしても8割まで。残りの2割は出せずに封じられているという。
その2割の潜在能力が今の夏喜が出している力だとすれば、今の大きな炎は全て説明がつく。
言うなれば『覚悟の炎』とでも言ったところだろうか。

「ぁ……っ」

夏喜が勢いよく立ち上がった。
そのため、朧は弾き飛ばされてしまう。
道路に座り込み、夏喜を眺めるキョトンとした朧の目線は、先ほどの殺陣の者の目ではなく、どこにでもいそうな女の子のそれだ。

「―――どこだ?」

夏喜は問う。

「………え?」

彼に驚異を覚え、圧倒的実力差がありながら、敵としての存在を失ってしまった朧に夏喜は問う。

「芦澤はどこにいる?!」

血を吐くように夏喜は叫ぶ。

「ぁ……たぶん……パトリスが連れてったハズ……じゃからあの病院に」

「病院、なんだな?」

「ぁ……う、うん」

そうか、と夏喜が小さく呟いた。
その瞬間、彼は足を動かし、病院へと向かった。
月夜に照らされ、青い地面に一つだけ紅の炎が浮かび上がっていた。

力強く。そして、頼もしく。

「あんなバカが……科学の計算に頼る都市にいるなんて……」

朧は立ち上がって、夏喜の走って行った方向に目を向けた。
しかし、すぐにヨロヨロと揺らめき、建物の壁に背中を預けて座り込んだ。
そして辺りを見渡す。

「あんなバカに勝てる筈があるまい……何にも役立ちゃせん」

朧は道路に落ちていた一つのクナイを手に取った。
しかし、それは儚く砕けて破片となった。

「頑張れよ」

そのクナイを見て、朧は小さく呟いた。
だがハッとしたような表情をして、首を左右に振った朧は小さく一歩、夏喜が向かった方向へ足を踏み出した。




「なあ、海澄、怪我はねぇか?」

高宮が病院の屋上に座り込み、その目線の高さにいる少女に話しかける。
しかし、返事はない。どうやら眠らされているようだ。

「ヒヒッ、コレで終りさ。海澄を安全な所に連れていきゃそれで終り」

高宮は芦澤の膝と腰に手をを回す。
とにかく最低手段、芦澤を安全な場所へと運ぼうとしているらしい。

「よっこらしょっ」

高宮は芦澤を持ち上げた。ほんの20センチほど芦澤の体を宙に浮かせた。

(―――?)

そこで高宮は違和感を感じた。
脚に全く力が入らない。
高宮はゆっくりと脚に目を向ける。
その瞬間、ドスドスッと聞き慣れない音が脚を襲った。

「ぐ――ぁああああああああ!!!!」

足から力が抜け、その場に脚を抱えてうずくまってしまう高宮。
芦澤もその場に投げ出されてしまう。

「っ……ぁ…はぁ…ハハハ…」

脚にに走る激痛を脚を抱えることで、最小限に食い止めるながら高宮は笑い声とも悲鳴とも取れる声のした方向に目をやる。

「……ぁ……ぐぅう……テメェ……パトリス……」

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