計算
「なるほどね……」
夏喜の顔が軽く緩んだ。
謎解きに成功したときの探偵のように。
「何がなるほど?」
「いや、こっちの話だ」
芦澤はコード化した、魔術を中和する手段を何通りも頭脳の中に補完しているのだろう。
そして、それを何時でも取り出せる状態にあるに違いない。
(しかし……禁書爆弾が人間だったなんてな……)
その時、夏喜に何かが引っかかった。
完全に物だと勘違いしていた禁書爆弾(ダイナマイト)は芦澤海澄という名の人間だった。
それの作られた目的が禁書目録を中和するためだというのなら、こちらも物だと思っていた禁書目録も人間だという可能性もあるのではないか。
「念の為に聞いてみるけど……10万3000冊の禁書目録(インデックス)って何なんだ?」
朧がピクリッと反応したような気がした。
やはり禁書目録とは、夏喜が思っていたような物≠ナはないのかもしれない。
夏喜の表情が強張る。
その表情は不安でもあり、半分怒りでもあった。
その夏喜と目を合わせたまま、朧は申し訳ない事を言うような表情で、
「……10万3000冊の禁書目録は……人間じゃ。……それもおぬしより2つ3つは年下のな……」
ドクンッ
と心臓が跳ね上がり、ブワッと瞳孔が開くののが夏喜自身でも感じられた。
不安が当たってしまった。あってほしくないと願っていた事がピンポイントで当たってしまたからである。
(そんな、人間を道具にすることが正しいか?)
力が全く入らない、指先を動かすだけで精一杯だった、それゆえ朧に馬乗りになられる事を許した。
その体に強く力が入っていた。夏喜の左手が強く握られ過ぎて震えている。
(正しいわけがないだろ!!ふざけんなよな……どう見ても芦澤は普通の女の子だろうが!)
そしてもう一人の禁書目録、夏喜とは面識がないが、それも普通の女の子にしか見えないかもしれない。
間違ってる――
その単語が数回、数十回、と彼の脳内を駆け巡った。その繰り返しがこの間違いを正しい答えへと導くため何度も何度も計算をする行為のようだ。
(――了解)
そして夏喜から夏喜へ一つの命令が出された。
彼は迷うことなくその命令に従う。
(芦澤や禁書目録の女の子の事を道具のように読んだりしていいわけねぇだろうが!)
夏喜は決心した。
(たとえ誰が間違ってると言ったとしても俺は正しいと思った事を貫いてやるよ!)
「おぬし……どうした?」
力の籠る夏喜の手を見て不思議に思った朧が夏喜に声をかけた。
その瞬間、
「う、おおおおぁああああああ!!」
ブワッ
と朧の髪が全て後ろへと持ってかれた。
夏喜の両手から凄まじい量の炎が吹き出していたのだ。
右手からは吸収した炎があるため、激しいのは理解できる。しかし、左手から吹き出す炎も異能力とは考え難い程の炎だ。
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