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操心術式
音速に迫るかという速度の岩とコンクリートが真っ向からぶつかり合う。
コンクリートと岩は正面からぶつかり、互いに砕けて白い粉塵となる。
その動作が無数に繰り返される。
岩とコンクリートが衝突する音は爆音となり、それによって生み出された衝撃は爆風となる。
そして、岩とコンクリートの粉塵は爆発後に残る噴煙にも見えた。

その広がる粉塵と爆風が両者を襲うが、少しかきわけるような動作をするだけで、全くその場を動こうとしない。

(クフフ、lupus……か)

高宮はパトリスの魔法名を思い出す。
魔法名に使われるのはラテン単語だ。
lupus単体での意味は狼≠サの単語に彼はどのような意味を込めたのだろうか。

「キヒヒ、ま、どうだって構わねぇか」

高宮は再び足首に回転の力を加え、公転するコンクリートによる強靭な装甲を作り上げた。
しかし、視界を確認する為か、コンクリートの一つ一つが個体として確認できる程の速度で公転している。
そうしているうちにも両者の視界が開けていった。

「……高宮、昨日は簡単に操られてくれたのに、今日はどうしたんだぃ?」

高宮はパトリスの言葉に、眉がピクリッと小さく反応した。
しかし、表情に変化は見られない。

「ハハッ、やっぱテメェだったのか。どうりでなぁ、海澄を襲っちまうワケだぜ」

「俺の操心術をこんな簡単に克服しちゃうなんて、驚きだよ。術式はまだ消えてないのにさ」

高宮は昨日、芦澤海澄を襲い、命を奪おうとする所まで行った。
自分でも何がしたかったのかわからなかった。
なのに体が勝手に動いていたのだ。
その原因が掴めずにいた高宮だったが、今に至ってやっと原因が掴めた。
パトリスの操心術℃ョ。それによって高宮は操られていたのだ。
操心術は術式の消滅まで対象者の心を操り、体を動かすと言う術式だ。
未だにパトリスが組んだ操心術の術式は解けていない。
なのに現在の高宮に操心術が効いていない。
その原因がパトリスには、一つの疑問となって浮かび上がっていた。

「キヒッ、操心術ってのは人に迷いがあるときの心の隙間に入り込む術式じゃなかったか?……でもって体を操る」

「あ……」

パトリスの裂けた笑みを描いていた口元が緩んだ。
その口元から読み取れるのは驚愕。

「なるほど……しかし、高宮、キミには迷いがたくさんあったはずだ。なのに急にここまで透明になるはずがない」

パトリスのその言葉に、高宮吐き捨てるように笑った。
そして、下を向き、前髪を小さくかきわける。

(ケッ、認めたかぁねぇが、あの野郎……芳野っつったか?あんにゃろうのせいで何かが変わったんだろうな)

その下を向いた高宮の顔はどこか呆れたような、しかし優しい笑みがこぼれていたように思えた。
その笑いの中に浮き上がってる瞳の光。
その強き光を刃に変えて彼は言う。

「とにかく今の俺に迷いはねぇ……覚えておけ――俺の魔法名は『正面突く剣(gladius111)』だ」

声に、パトリスは口の端を歪めて再び裂けた笑みへと表情を戻す。
魔術師であるが故にそれを名乗った男の闘志と真意を汲み取ったのだ。

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あきゅろす。
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