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クナイ


「正解は蹴りでしたってな。やはり遠心力とかいうのが働くからかの」

朧は地面に倒れている夏喜を見下ろしながら首に手を当ててコキコキと関節を鳴らしている。
しかし、夏喜を蹴った位置から一歩も動こうとはしない。

「ほら、まだ終りじゃなかろ?」

ジャリッ
と何かを掴むように倒れたまま拳を握り締める。
顔の皮膚、膝の皮膚、腕の皮膚が擦り減ってしまっているため、ビリビリと言う感覚が身体中からする。
水月へ蹴りを受けたため、その後背中からアスファルトへ倒れたため、空気が強制的に吐き出されるような感覚がなかなか抜けない。たった一撃で身体中の力が抜けてしまったような感覚。
夏喜は思う。

(一撃でこんなとは……ハハッ参ったな……)

経験が違いすぎる。
何をしても勝てない。それだけのレベル差がある。
それでも、

「腕が折れようが、足が折れようが、首まで折れてしまおうが、関係ない。心だけは折れたりはしないと決めてるんだよ」

夏喜は再び腕と足、それから身体中に力を込めてゆく。
何度か息が吐き出す様に勝手に漏れるが、関係ないというように夏喜は立ち上がる。

「ほぅ、よい心掛けじゃ」

ヒュンッ
と風を切るような音。
それが聞こえたと思った瞬間、夏喜のすぐ横に立っていた路地樹が倒れた。

「な……」

朧は、一瞬小さく手を振るうような仕草を見せた。ただそれだけで一本の木が倒れてしまった。
夏喜の頬に伝えう一閃の汗。

「今ので本来三回は楽に殺せたんじゃがの」

ズズッ
と擦るように足を前へと動かした夏喜の爪先に何か堅い物が触った。
それに驚いた彼はそこへ目をやる。

「こ……これは」

そこには朧が手に持っていたはずのクナイが二本。
アスファルトにまるで地面が土かとでもいうように、いとも簡単に突き刺さっていた。

確かに一瞬手を振るうように見えた。
そう、確実に腕を振るったとは確認できなかった。
なのに足元には二本のクナイが突き刺さっている。頬をかすめ、路地樹を倒したのもクナイだとすれば、あの一瞬に放ったクナイは三本。

「もう一度問わせて貰う。答え、闘るか否か」

「またそれか……わかりきった事を聞くなよ」

それを言い終わった瞬間、再び幾度か耳元に空気を斬る音が届き、アスファルトの道路に引っ掻き傷のような傷が走ってめくれあがり、辺りの樹木が次々と倒された。

やはり振るったような℃d草は見えたのだが、反応する前に辺りに衝撃が走っている。

「とっ……」

夏喜には倒れる樹木を避けるのが精一杯だった。
それ故に朧の動きから目を離してしまっていた。

「ほら、目は敵から離してはならん。そうなったら最後だと思うんじゃな」

その言葉が夏喜の耳に入った瞬間彼は朧の立つ方向に目をやる。
瞬間、電灯に照らされ、明かりがあるはずの道路が不自然に暗くなった。

「――ッ!!?」

そのことに不自然さを感じた夏喜が驚き、上を見上げると、そこには複数の木が彼のの頭上で群れをなしている。

「さらばじゃ」

朧がそう静かに呟いた瞬間、木の群れは大きな雨となり、その雨は170cm前後の夏喜の身体に強く降り注いだ。


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あきゅろす。
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