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眼光
「その眼……なるほど。良い目じゃ」

朧は優しく目を閉じた。そして、胸を大きく膨らませ、深く深呼吸する。
そして夏喜に目を向けた。
その時の眼は、慣れ慣れしく友人にでも話すかのように話していた先ほどとは異なるものだった。

切れ味鋭い刃物のような、全てを切り裂く視線。
夏喜も強い視線を朧へ向けていたが、それをも上回る視線だった。
夏喜の眼球がグラリッと揺らぎそうになる。
夏喜には無意識に恐怖を感じてしまっていた。

「しかし、あちきはまだ、はっきりとした答えは聞いてないのぉ。一応満点の解答を頼むな」

ガチガチッと歯と歯が当たる音がした。
それを抑えるため夏喜は強く噛み締める。

「答えは……闘るに決まってるだろ」

それでも、夏喜は言った。恐怖で歯が震えていても、嫌な汗が開いた毛穴から吹き出してきてたとしても、
朧に突き刺した強い眼光は変わらなかった。
自分が正しいと思った答えが出来た夏喜は揺るがない。
ジャリッと夏喜の足元に力が込もる。
両者の距離は約8m。

「では、仕方がないの。始めるとしよう。そして終りじゃ」

ダンッ
朧が言い終わる前に夏喜が地面を蹴った。
彼は8mもの距離をたったの三歩で縮める。

しかしその間に朧も全く動かなかった訳ではない。
彼女は太ももに巻いたベルトから槍の先端だけを取ったという形に近い忍者武器、『クナイ』を三本引き抜いた。

朧がクナイを抜き終えるのと、夏喜が強く握り締めた左拳を朧の水月(みぞおち)めがけて突き出すのはほとんど同時。

朧はそれをクナイを下から抜き上げる動作の途中、夏喜の狙っている場所でクロスさせて防ぐ。
見てから反応していたのでは明らかに間に合う速度ではなかっただろうが、朧にはキャリアがあった。
相手が何処を狙っているのか、それを考え反射的にその行動を行なったのだ。
もちろん半端な経験では動けない範囲ではあった。

夏喜の拳はそのクロスさせたクナイに防がれてしまう。
その跳ね返りの衝撃が夏喜の左拳を襲った。
表情を歪め、身体が一瞬硬直しそうになるが、それを気迫で押さえ込む。

「が……だあああぁ!」

そして間髪開けずに左手とは反対の手、右拳を朧の鼻っ頭をめがけて回転を加えて突き出だした。

しかしその時には朧のクナイはクロスした状況から解き放たれ、自由な状況になっていた。
朧は涼しい表情で夏喜の右拳の衝撃をクナイのみねで受け流し、夏喜のバランスを崩して一瞬彼の動きを止める。

それが起こったのは瞬きできるかできないかの一瞬だった。
しかしこの一瞬の静止時間が命取りになった。

「さて、ここでクエスチョン。拳と蹴り、それはどちらが強いかの?」

「ぁ……」

朧がそう言い終わる前に夏喜の水月に重い衝撃がのしかかった。
それは腹から背中に一瞬で突き抜ける。
水月に吸い付くように入り込んだ朧の蹴り。

それを受けた夏喜の体はくの字に折り曲がり、一m程の距離を宙に浮いて飛んだ。
その後3m程アスファルトの上を滑って進む。

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