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解答
月に照らされるもくもくと広がる爆発によって引き起こされた粉塵。既に日は沈んでしまっているため、詳しい状況は目視できないが、石油などが爆発した時のように火炎が発しているわけではなさそうだ。
見た限りだと、砂のような細かい粉が広がっているようである。

暗がりでそこはどこにでもありそうな、ビルの屋上のように見えた。

「あ〜あ、あそこはパトリスのおる病院じゃぁ」

ザンッ
と夏喜の背中に何かが走った。まるで斬りつけられたように冷たい感覚。
病院、今まで夏喜が目指していた場所は何処だったか。
そう、芦澤海澄のいる病院だ。
では夏喜はなぜその病院を目指していた?
そう高宮も病院を目指していたからだ。
そしてその病院は夏喜から見える位置にある。
一度来ているから形は覚えていた。
目を細めてよく見てみれば、確かに見覚えのある病院のシルエットだった。
夏喜は高宮を追いかける形でここに着いた。と言うことは既に高宮は、

「待て、あそこには高宮も向かったはず」

「高宮じゃろ」

即答だった。
夏喜はそれを聞いて叩き付けるように朧のいる方向に振り返った。
彼女は呆れたように顎に手を当ててニヤニヤとした表情で首を小さく横に振っている。

「あ〜あ、高宮とパトリスがぶつかる前に止めようと思ったんじゃが、入れ違いになっちまったようじゃのぉ」

見てくれは笑っていたが、先ほど夏喜に言った言葉よりも低く、冷たい声に感じられた。
ゾンッ
と何かを突き刺すかのように放たれた女≠フ声。
今まで声は見た目に似合うであろう少女の声だった。なのに、今の声は女≠フ声だった。
ゾッとした。
笑ってはいるが、明らかにその表情の裏で反対の表情が燃えているのを読み取るのは容易な事だったから。その朧が、静かに口を開いた。

「して、先ほどの問いの解答を聞かせてもらおぅかの。状況が変わってしまったようじゃからの。急がせてもらう」

そしてウインクでパチンッと指を鳴らす。
しかし低く冷たい声は変わらない。

その時、再び爆発音が病院の屋上から鳴り響く。

(高宮はどうなる……か)

彼には守る物がある。その信念の元に戦っているに違いない。
それが芦澤のためなのか、それとも他の物の為なのか、夏喜には分からない。
しかし、しかし、だ。夏喜にはその行動に間違った点は見つけられなかった。
どう考えても夏喜にとっては高宮の行動は正しかった。

(決まってるよなぁ)

その時に、夏喜の中で一つの答え≠ェ出来上がった。

「おぬし?どうする?」

「ハッ、アンタ。いつの時代の言葉を使ってるんだよ」

予想外の言葉に朧は目をひそめる。

「笑える。言葉遣いも江戸時代。質問の内容も江戸時代」

夏喜の頬がゆっくりと吊り上がってゆく。
その表情で夏喜は下を向いた。
朧は未だに夏喜が何を言っているのか理解できない。

「フフフフ……アンタの質問なんか、とっくに答えが出来上がってたんだよ。アンタが言葉に出す前にね」

夏喜は下を向いたまま左手に強く力を込めた。
そしてムクッと勢いを付けて起き上がるように顔を起こして、月に照らされる眼光を目の前に立つ少女に突き刺した。

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あきゅろす。
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