魔術師B
「キッキッキ、別に不思議じゃねぇだろう。魔術と言えば科学たぁ正反対なものだからなぁ、敵対することもあるかもってモンだ」
夏喜はなにくわぬ顔で話し続ける高宮をキョトンとした表情で見ていた。
「ヒャハッ、つまりは簡単に言うと俺は魔術側のスパイってこと。ちなみに俺のはイギリス清教の方だぜ」
「スパイ……」
しかし高宮が魔術師だと言うのなら、魔術と能力を合わせ持つ高宮がパトリスに敗れるという事はないのではないか。
「じゃあ、さっきも魔術であのパトリスとか言うのに対抗すればよかったんじゃないのか?」
「あぁ、それ無理」
「なんで?」
「ハハッ、魔術ってぇのは、学園都市の超能力と根本的な回路がちげぇんだよ。本来、超能力が使えねぇヤツを使えるように、って補うのが魔術だからよ」
学園都市の時間割り(カリキュラム)は、薬品等を投与して、脳の回路を人工的に開くために行われている。
つまり、開発された『能力のある人間』には『能力のない人間』のために組み上げられた術式と儀式に、それら人工的に作られた回路が魔術の邪魔になってしまい、魔術を使う事はできないのだ。
それにしてもどうやら高宮は本当に魔術師らしい。
この科学でありふれた学園都市に魔術の知識を持っている人間など夏喜は知らなかった。
その前に知識どころか、信じている人間さえも絶滅危惧種に値するだろう。
「へ、へぇ……学園都市にもそういうのがいるんだな」
「ヒヒッ、俺の他にも何人か混ざってそうだぜ?」
何事も、疑う事の知らない夏喜も信じられなかった。というよりは信じたくなかった。
しかし、高宮が言った敵地に潜り込むスパイというのは、『一理ある』と思う。しかし、信じたくない。
スパイは『高宮の他にもいる』もしかすると夏喜の側にも高宮のような人物がいるかもしれないと言われてしまったのだから。
衝撃を受ける夏喜の顔をみて、高宮は少し自嘲めいた笑みを浮かべて、
「ケラッ、ま、いたとしても、230万分の一ケタ単位だからそういねぇよ、オイ?」
夏喜は相変わらずポカン、と口を空けていた。
そこを、何か思い出したかのような反応を示して高宮に問う。
「あ、ああ、もう一度聞かせてくれ。高宮、お前は魔術側のスパイなんだな?」
「フフッ、そゆこと。こっちの顔かオレのリアル。学園都市の動向をイギリス清教に伝ええる盗聴機ってとこか」
スパイなど、どこかの刑事ドラマ以外にあるのか、本当に疑いたくなっていた夏喜であったが、現実離れし過ぎた現実がそこにあった。
ましてや、スパイで有名な夏喜の知っている組織ではなく、魔術というオカルト的な組織のスパイに関わっている。
夏喜からは、勝手に笑いが込み上げて来ていた。
「フフフッ、面白いね。こんなのに俺が巻き込まれるなんてさ」
「ヒヒッ、お前どういう精神してんだよ?」
高宮は眉をひそめ、頬をひきつった笑いをしていた。
「しかし、こんな流れがあるもんか。もうわかったよ。あの子、芦澤もこのオカルトストーリーに無関係じゃないって事もな。だろ?」
「ヒャハッ、その通りだ。、海澄に関わった以上、地獄の底まで連いてくるハメになるかもしんねぇぜ?ダイナマイト級に爆発したりしてなぁ!」
夏喜はそれを聞いて一瞬、下を向いてうつ向いた。そして下を見たまま、目で自らの左手に目を置く。
その左手は僅かに震えていた。
しかし、夏喜は、フン、と短く歯を見せた笑いをして、
「ククク……嫌だね……だから俺はそんなもん吹っ飛ばして地獄の底から引き上げてやるつもりだからよ」
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