魔術師@
「大丈夫か?」
高宮は目を覚ましたようだ。
大丈夫だ。と制するように夏喜の前に手のひらを広げた。
その高宮は、二、三度喉に詰まった物を取り除くような乾いた咳を発して、壁を支えにして立ち上がろうとする。
だが、まだダメージが抜けないのか、フラフラ、と足をもつらせたのち、再び壁に背中を預けるようにしてズルズル、と崩れ落ちてしまった。
「オィッ、無理するな!」
「ゴホッ……ふぉ…」
岩が頭を打ち、腹部にめり込んだため、吐き気がする。
「クソが!、なんなんだよ、アイツは」
「アイツ……?」
高宮は眉をひそめた。
どうやら、頭を強打したせいで、記憶の部分、部分が飛んでしまっているのかもしれない。
だが、それも一時的な物だろう。
「そ、そうだ!ヤツは?パトリスのクソ野郎は?」
「あぁ、それならお前の代わりに俺がぶん殴っておいたよ?」
その言葉に高宮は一瞬、目を見開いた。
そして暫く黙るが、癖となっている笑いを一瞬吐いた。
「キヒッ…………クソッたれが」
「え?」
「と、いや、こっちの話だ」
夏喜は暫く不快な顔をするが、すぐに話題を元に戻す。
「で?パトリスってヤツは何者なんだ」
「キヒッ…おそらくは……学園都市、『統括理事長』の副産物が狙いだろうさ」
「副産物……?」
「ヒッヒ、通称10万3000冊の魔導書を保管する、『禁書目録(インデックス)』。それを中和……と言うよりは破壊するっつった方がいいな。そのためにある『禁書爆弾(ダイナマイト)』が狙いだろぉよ」
高宮は夏喜の聞き慣れない言葉をズラズラと並べて、パトリスが何を狙っているのかという推測をあっさりと言って見せた。
夏喜はそれを聞きながら、口をポカンと開けて呆然としていた。
「魔導書ってことは、魔術か……なるほど……と納得したいんだがそれにはちょっと無理があるんだが」
夏喜は人差し指で、苦笑いで引きつっている頬をポリポリと掻きながら呟いた。
「あぁ?!」
しかし、高宮は威嚇するような目で夏喜を睨みつけた。
その迫力は、常人のそれではなかった。
それ故に、夏喜はビクッと肩を縮め苦笑いしていた表情が顔を青くしてすぐに固まってしまう。
「フンッ、現にパトリスと殺り合ってまだわかんねぇっつうのかぁ?」
「え……?」
夏喜から無意識に言葉が漏れた。
「ハハッ、ヤツとやったんなら、見たんだろ?普通の能力者にあんな事ができんのかょ?」
夏喜は眉を潜めて、パトリスと対峙した時の状況を思い浮かべる。
パトリスは剣を振るだけで、高宮には岩、夏喜に対して、炎、風、水、冷気、そして不意に部屋を襲った大きな揺れもパトリスによる物である可能性が高い。
(『多重能力者(デュアルスキル)』……?いや、しかしアレは理論上不可能らしいし…最初の炎は吸収できなかった……異能の力なら吸収できるはずなのに……まさかアレは、異能の力による物ではなく本物の炎だったとでも言うのか?)
「キヒッ、いい加減分かってキタか?ヤツの使ってるのはれっきとした魔術なんだょ!」
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