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パトリスvs夏喜B
夏喜はそう叫んで、左手で吸収した力を己の力に変えて勢いよく放出した。
炎はパトリスの両脇をかすめるような形で、壁を直撃した。
これはパトリスによるものではない。
炎で直接攻撃するよりも、噴出によって引き起こされる爆風で攻撃した方が、威力は高い。

その爆風でパトリスの体は宙に浮き、まるでワイヤーアクションのように飛び上がる。
そして、壁に強く叩き付けられた彼の身体は力を失いい、その場にうつ伏せになって倒れ込んだ。
近寄って確認をした訳ではないが、パトリスの脱力した倒れ方を見る限り、意識を失ってしまっているようで暫くは起き上がりそうにない。

「あぁ、よかった。一時はどうなるかと…」

夏喜は頬を伝う汗を腕で拭い、ぐるり、と一周部屋を見回す。

大きな衝撃が起こったため、部屋がミシミシ、と嫌な音を立てていた。
また、今の騒ぎで人も集まってくるかもしれない。

(とにかく、移動しないとな……)

夏喜は、先ほど倒れてしまった高宮に近寄って、高宮の腕を首に回して立ち上がらせる。

「……しっかりしろよ」

高宮はあの後気絶してしまったようで、目を閉じていた。
胸の辺りが順調に膨らみ、凹む。この動作が繰り返されているのを見る限り、体に対する損傷はそれほどでもなかったようだ。

「あの子に合わせてやるからよ」




芦澤海澄は、病室の窓の外を眺めていた。
下から甲高い音が空気を震わせ、ガラス窓を突き破り、耳を指すように響いてくる。

「何が…起きたんですか」

誰かに聞くように、しかし誰もいない病室で、恐る恐る小さな声で彼女は呟いた。

「消防車?」

海澄が下を確認すると、そこには次々と早いスピードで、真紅の消防車が病院の前を通り過ぎてゆく。中には警備員(アンチスキル)の車両も混じっているようだ。

なんだろう?と一瞬考えるが、目線を窓から離して、海澄は、安堵したように病室のベッドにドサッと倒れた。

「高宮……隆治」

海澄は昨日の襲撃者であり、クラスメートでもある男の顔を思い出す。

「芳野……夏喜…ですか」

次に、今昼会ったばかりの、高宮に勝ったであろう男の名前を思い出す。

高宮は大能力者である。
それに勝ったと言うことは、それ相当かそれ以上の能力者なのか。

その前に、何故クラスメートの高宮が海澄に襲いかかったのか。

「一体、何が起こってるんですか……」

先ほどの甲高い音の集団は通り過ぎ、外は太陽の白色が赤く変わり初めていた。
静寂が戻った外を見つめ、彼女はそう呟いた。
その時、不意に病室のドアノブが動いたような音がしたが、彼女は気付かない。




「よかった…間に合った」

夏喜は高宮を連れて、路地裏に急いで駆け込んだ。
辺りには、騒を聞いて、駆け付けた消防車の他に、風紀委員や警備員達が、閉鎖のロープを貼って警戒体制をしいていた。

警備員が、今日は学生寮での、不思議な事件が二つ重なっている、などと言っていたが遠くにいた夏喜の耳には入らなかった。

一つ目の事件とは、先ほど夏喜が目撃した、彼の寮に残された火事跡の事である。

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あきゅろす。
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