パトリスvs夏喜@
夏喜の目の前に立ちはだかるパトリス=ネビルと名乗る身長180前後の大男。
危険なのは本能が告げている。
夏喜は強い眼力でパトリスを見つめているが、それとは裏腹に足は震えていた。
「よくよけたねぇ。じゃあ、これはどうかな?」
パトリスはその言葉の中盤くらいのところで、左腕の義手から生える剣を斜面を描くように、つまり45゚程の角度で振り下ろした。
途端、またも何もない所からあるはずもない物が吹き出した。
それに夏喜の動きは通常の半分、いや、それ以下の速度に制限されてしまう。
「な……水?」
吹き出していたのは水だった。
その水は夏喜の膝下程までを覆っていた。
(何を……?)
水は部屋の全体を浸している。
当然パトリスの膝元も浸水していた。これでは両者動きが取れない。
「ふふっ」
と、夏喜は思ったが、パトリスの不敵な笑みを不思議に思って彼の足下を確認すると、水はパトリスの体を避けるようにその部分だけポッカリと穴を開けていた。
「そん……な」
その時、パトリスが剣を右肩の辺りにかざした。
夏喜は膝下まで水で覆われているので、思うように身動きがとれない。今、攻撃を受けたら無事でいられる保証などない。
「もっと動けなくしてあげるよ!」
そして剣を45゚に振り払う。
(っ………)
夏喜は頭だけは守ろうと、腕をクロスして攻撃を待ち受ける。
そして恐怖ゆえに目を閉じた。
「………?」
しかし、夏喜が想像したような切り裂かれるような感覚や、皮膚が焼けるような感覚は感じなかった。
ただ、一瞬寒さを感じた。
ただそれだけだった。
夏喜はなんとか持ち堪えたと思い、瞑った目を恐る恐る開く。
「な……んだ」
辺りは白一色だった。
辺りの家具には霜がおりており、水道には小さな氷柱ができていた。
先ほど夏喜の感じた寒さ。
それはパトリスによって引き起こされたものだった。
パトリスが剣を一閃した直後に氷点下75℃もの冷気が吹き出したのだ。
「これだけで何になる?」
夏喜がそう問うと、パトリスは見てみろ、と言っているように、微笑みながら先ほど水が浸っていた床を指差す。
夏喜はそれに従い、首を下へと移す。
「そ、そんな……クソッ」
夏喜は足を動かそうとするが、そんな簡単な事ができない。
動かしたくても、動かせない。
先ほどの冷気で膝下まで浸っていた水が凍りついてしまっていたのだ。
厚さにして約20センチ。
下部にまだ水の部分が残ってはいるものの、それだけの厚さがあれば常人の動きを封じてしまうことなど造作もない。
そして、パトリスは一瞬乾いた笑いを吐き、剣を地面に突き刺した。
そして、夏喜の位置を確認するように強い眼光を夏喜へとぶつける。
獲物を狙う肉食動物の狩りを始めるの前のような目だった。
「ちっくしょぁぁぁ!」
夏喜は危険を察知した。
彼は自身の発火能力で足元の氷を破壊して脱出する。
普段は異能力者止まりでも、先日、高宮の力を吸収した時のストックが余っていたため炎の威力が増していた。
溶かすというような回りくどい事はせず、爆風で氷をまるでガラスの様に割り、氷による拘束から逃れる事に成功した。
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