[携帯モード] [URL送信]

Merging Melodies
6




『………ツン、ちゃん……。』


昨夜、もう日付も変わる頃、落ち着いて寝たいからお願いだからボールに入ってくれと彼女にお願いしたが、どうしても入りたくないと駄々をこねるので、ちからづくで入れようとしたところ、大泣きして大暴れしだしてしまったため、仕方なく外で寝かしてやるよと、ポケモン一匹用の小さな布団を用意したところ、一人で寝るのは怖いと号泣して大暴走し始めたため、仕方なく自分の腹の上で寝かせることとなった、大体そんな感じ。


先程彼が感じた指先の違和感の正体は、今は大人しく眠っているが、昨晩の暴れっぷりと言ったらセンター全館から苦情が来るほどだった。


『おい、ツンちゃん起きろ。あと、俺の指を、食うな。』


たまたまツンちゃんの上に乗っかった手で彼女の背中をポンポンと叩きながら、フォアイトは不機嫌そうに声をかける。
もそりと、彼女の体がうごめいた。


『…うみぅ〜…。』
『………うみう…ってなんぞ?…………いや、いいから起きろっ。』


おかしな単語を呟きながらも起きる気配すらないツンちゃんに、元からいらいら〜としていたフォアイトは、語尾を強くして再び彼女を起こしにかかる。
が、彼女は目を覚まさないばかりか、くわえていただけの指をちゅうちゅう吸い、軽く歯を立てて噛み噛みし始めた。


『……………。』


端から見ればそれはそれは和む光景であるが、先程から苛立ち始めている、何より、かわいらしさから和みを感じることの無いフォアイトにとって、この状況は、面倒臭い以外の何物でもなかった。
叩き起こそうかと迷った彼だったが、昨晩のようにまた騒ぎ立てられても困るので、とりあえず彼女にむしゃぶられている指を引き抜くことにした。
ツンちゃんを刺激しないようゆっくりと指の救出作業を進めるフォアイト。
しかし、後捕われているのが爪部分のみとなった頃だった。


『……んむぅぅ〜ぅ〜……しゃふっ……。』


突然、ツンちゃんが不機嫌そうに眉をひそめて唸ったかと思うと、寝てるとは思えないほどの俊敏さで、フォアイトがせっかく引き抜きかけていた指を、またパクリとくわえ込み、今度は食いちぎる勢いでギリギリと噛み付いてきた。夢の中で獲物でも捕らえたのか、彼女の尾は、機嫌良さそうにゆらゆら揺れていた。


『あいたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた。このやろ…。』


ご機嫌そうに寝息をたてるツンちゃんとは対照的に、フォアイトはイライラが募りに募ってついに眉間にシワを寄せた。
彼は彼女にくわえられている指を口の端っこに引っ掛けると、そのまま思いっ切り、彼から見て左に頬を内側から引く形で引っ張った。


『………ひゅは…………くょぁふ……?…………???』
『……………。お、は、よ。ツン、ちゃん。』
『………。…………!!あいららららららららららららららららららららら!!!!!!!』


彼女はほっぺを襲う痛みからやっと目を覚ますも、一瞬、何が起こったのかわからないといったような、心底アホみたいな表情を浮かべ、空気の抜けるような音を喉から漏らした。
それも一瞬で、フォアイトが彼女に一声かけると同時に、やっと事態が飲み込めたというか、何でほっぺたが痛いのかがわかったというか、寧ろ今更頬が痛いというのを理解したかの様な、とりあえずこの世の終わりのような表情で喚き散らしはじめた。


『いらいいらい!やぇへ!やぇろぉ!』
『うん。それよりさ、君はそんな歳になってもおしゃぶりがなきゃ寝れないんだな。ツンちゃんはな。』


ほっぺを引っ張られて痛そうに喚くツンちゃんを尻目に、フォアイトは引っ掛けていた指を弾くように彼女の口から横に取り出しながらそう問い掛ける。
ぺこっ。と伸ばされたほっぺたが空気を含んで、勢いよく歯に跳ね返る音がやけに間抜けに聞こえる。


『なによぉ!寝ている女の子のお口に、指を突っ込んでおいて!変態!変態!』
『いや、だから、これはおまえが自分でくわえて噛み付きやがったの。わかる?』
『知らないもんそんなの!あたしやってないもぉん!ぴゃぁーーーーーーっ!!』


フォアイトの皮肉な問い掛けに対し、ツンちゃんは前面から否定して怒鳴り立て、そんな彼女を黙らせるため、彼は噛み跡のくっきり残る指を、彼女の目の前に持ってきながら更に自分の正答さをアピールする。
しかし、自分の非を頑として認めないツンちゃんは、フォアイトの腹の上にいることも忘れ、ついに手足をじたばたさせて大騒ぎしはじめた。


『ぐぇっ。えくっ。げふぅ。暴れんなよ腹のうげぇっ!上でぇ。』


ただでさえ昨日の麻婆豆腐尽くしのせいでお腹がおかしくなっているというのに、その上で暴れ回られたら、たまったものではない。
フォアイトはその場でだばだば暴れているツンちゃんの細い脇腹を両手で掴んで抱き上げると、顔をずっと近付けて脅すようにこう言った。


『静かにしろ!それ以上暴れたら、もれなくモンスターボールの中へとご招待だ。』
『ひ、ひぃっ!やだっ!ボールやだぁぁぁぁあっ!びゃぁ゛ーーーーーーーーーんっ!!!!』
『だから静かに…。今何時だと思っ…。』


既に興奮状態にあったツンちゃんは、彼の脅しを真に受け、とうとう泣き出してしまった。
まさか泣くとは思っても見なかった、いや、薄々そんな気はしていたけど、あまり時間をかけたくなくて強行手段に出、結局失敗したフォアイトは、朝っぱらから叫ぶ彼女に昨日のことを思い出し、無意識に彼の頭上に掛けてある時計の方を見、そして固まった。


『ぅうぇぇんっ!ひっく…。フォ、アイト。うぇっ。ゴメンな…ふぅっ、さぁい。いい子にして、ひくっ…ぐず…いい子にするから、ボールやだよ…。』
『………………。』
『……?………フォ…アイト?』


しばらく、フォアイトに捕まれたまま泣き暴れ続けたツンちゃんは、やっと落ち着いてきたのか、しゃくりあげながらフォアイトに許しを請う。
が、当のフォアイトは心底怠そうな表情で固まったまま時計を見つめていて、何の答えも返さなかった。
数秒後、はぁ、と昨日から数えて二桁はいったかのため息を吐きながら、目の前で大人しく自分に抱かれているツンちゃん
に視線を戻す。
なにかされると勘違いしたのか、ひぃっ、とツンちゃんは悲鳴をあげた。


『12時38分…。昼飯だ…。』
『………へ…?』


パチクリ。大きな瞳を、ツンちゃんは三回ほど瞬かせた。
12時半過ぎ。
普段なら今日はもういいやと諦めて、二度寝に走る時間帯だった。
何となくご飯のことが頭に浮かんだフォアイトは、無意識のうちに麻婆豆腐を思い浮かべていた。




[*前へ][*次へ]

6/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!