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Merging Melodies
第二話








『ねぇ〜えぇ〜。いつまでそうしてんのぉ?早く行こおよぉ〜。』


日も落ちきった一番道路の河原、かつてチェレンが不運にも深みに大落下して九死に一生を得たちょうどその現場近くに座り込み、しばらく動かないまま時々ため息を吐くことを繰り返してここ数十分を過ごしたフォアイトを、ツンちゃんはペチペチ叩きながら出発へと促した。


『だってよ…。』


ぐずりながら振り返り、自分の服の裾を引っ張ったり叩いたりしている彼女を暫し見つめると、フォアイトはへぁぁぁえ、と大きすぎるため息を地面に向かって吐き出す。


その腰につけられたボールベルトには、既に中にポケモンが入っているモンスターボールが二つ、逆さまでくっついる様が確認できた。


『なんなのよぅっ!ポケモンの言葉わかるの、そんなにイヤなのぉっ!?』


いい加減フォアイトのウジウジに腹が立ったツンちゃんは、怒気を含んだ大声で彼を叱咤する。


彼女も長い間彼のこんな状態に付き合わされ、苛々が募っているのか、そのしっぽはせわしなく地面を叩いて跳ね回っていた。


『いや違くて、いや、わかるようになったこと自体、は別にいいんだけど…。それによっての被害というか、何と言うか…。』


ツンちゃんに詰め寄られたフォアイトは、身体を若干彼女から退かせると、言い訳極まりない口調で声を萎ませていく。


その唇はやけに渇いており、心なしか数刻前と比べて頬もこけたように思えた。


これから しばらくは
フォアイトの かいそう
シーン だよ !




―――――――――




『ぅおっすぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぃいぃっ!』


日が遥かネジ山の向こうに沈もうとしている頃、薄暗くなっても野花の目立つ1番道路の原っぱに、周辺の樹木の葉をすべて落としてしまうような怒号が響く。


近くの木々に停まって睡眠体制を取ろうとしていたマメパトの群れが、驚いた様子で枝から離れ、まだ僅かに明るみの見える西の空へと飛び立つのが、やけにベタな光景に見えた。


そこが外であろうとなかろうと叫びたくなれば叫ぶ。


それがアララギクオリティ、又しても遅れてきたフォアイト、チェレン、ベルに対し、研究所にて吠えまくったのと同じ声量で喉を唸らs


―――――――――




『いや間違えた間違えた違う違う。野性のアララギのほえるなんて、思い出してどうする。』


度重なる疲労のためか、それとも相当アララギの怒号が耳に残っていたのか、はたまたその両方か、本来なら有り得ない回想シーンの差し間違えに、フォアイトは、後頭部から出かかった白のもやもやを元に戻しながら、数十分前のハイテンション博士に悪態をついた。


確かこのあとアララギは、ポケモンゲットの手本を自分らに見せつけ、この先のカラクサタウンで待ってるからと吐き捨てて消えて行ったような気がする。


というより、よくアニメとかで人が頭の中で想像しているのを表現するのに使われる『白のもやもや』を、実際に使用できること自体が現実離れしているが、イライラしているせいでツンちゃんの正常な判断力が欠かれ、ツッコミ不在のこの状態では、ここから何か別のくだりに派生することはまず無かった。


『ぴゃぁ!しっかりしてよぉ!こんなんじゃちっともお話が進まないじゃぁん!』


その場でダスダス音が立つほど跳ねながら、怒るというより駄々をこね始めたツンちゃんに、お話って表現おかしいなと思いながらも、フォアイトは適当に謝罪を述べ、正解の方の回想を始める。




―――――――――


『ツンちゃん体当たりー。』


それは、野性のヨーテリー♂をゲットしたときのワンシーン。


フォアイトの頭から出たモヤモヤの中では、やけに伸ばしの長い彼自身の指示に素直に従ったツンちゃんが、今正にヨーテリーに攻撃を加えようとしていた。


『うりゃりゃ!くらえーっ!』


掛け声とともに突っ込んだツンちゃんは、その細い身体に似合わないパワーで、戦闘体制に入って間もないヨーテリーを弾き飛ばした。


『うぎゃぁーっ!痛い!僕がいったい何をしたというんだ!』
『………。』


ツンちゃんの攻撃を受け、悲痛な叫び声をあげながら宙を舞い、地面に叩き付けられたヨーテリーを見て何とも言えない切ない気分になったフォアイトは、口を半開きにして固まってしまう。


『ぴゃう!フォアイト!チャンス!チャンス!ボール投げて、ボール投げてよぅ!』
『ぉえぅ?ぅお?あ、い、い、行け、行けよ、モモモモンスターボォーールルゥ!』


ポケモンゲットの絶好のチャンスを前に、急に動かなくなってしまったフォアイトを、ツンちゃんは身振り手振りをつけながらゲットへと促す。


ずり下がっていた意識を無理矢理元の場所へ戻されたフォアイトが噛みまくりながら投げたボールは、ヘロヘロとヨーテリーにぶつかると、口を開いて彼を赤い光りで包み込み、中へと吸い込んでその無機質な中身を外界と遮断した。


一回二回と揺れる赤白のボールを見つめるのは、トレーナーにとっては緊張の一瞬。


のはずなのだが、当のフォアイトは心ここにあらずの状態で、代わりに、ツンちゃんが拳を握り、額に緊張から来る汗を浮かべている。


フォアイトが次に意識を引き上げられたのは、ボールを両手で抱えて、はしゃぎ回るツンちゃんが、彼の足元でけ躓いて転び、あぴゅぅ!と叫んだときだった。




―――――――――


『あげく、こっちのミネズミのときなんかさ…。』


一度回想世界から回帰してきたフォアイトは、腰につけられた二つのボールのうち、手前にある方を突いて再びモヤモヤへと意識を移す。




―――――――――


『ツ、ツンちゃん、つるの、むち!』


先程習得したばかりの草技、つるのむちを、躊躇がちに指示するフォアイトの姿がそこに写されていた。


心なしか、指示の際に前へ突き出した腕の指先が震えている。


『くらえゃゃゃゃゃ!』


肩から生えた黄色い葉(?)の裏から蔓を伸ばし、勢いをつけて振り下ろすツンちゃん。


標的となったミネズミ♀は縮こまって頭を守ることすら許されなかった。


『うわぁぁぁぁぁあん!痛いよママーっ!!』


柔らかそうなくせにやけにパワフルなつるのむちの一撃を受け、ついには 親に助けを求めはじめたミネズミに、フォアイトは今度こそ胸の辺りに直に締め付けられる痛みを覚えて、自分の心臓の辺りをギュウと左手で握った。




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あきゅろす。
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