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式神の城
【エミリオ&バトゥ】未来の君



 遠く東欧の小国より、大人と子供が一人ずつ、日本までやってきました。
 大人の名前はバトゥ。お医者様になる為に、学校に行って勉学に励んでいます。
 子供の名前はエミリオ。立派な伯爵になる為に、魔女の元で暮らしながら様々な事を学んでいます。
 慣れない土地での、慌ただしい毎日。
 二人はそれぞれの目標の為に頑張っていました。



◆◇◆◇◆




 1月の第二月曜日。午後。
 人通りの多い駅前を、バトゥとエミリオは一緒に歩いていた。
「お〜いっ、エミリオ〜! オッサ〜ン!」
 聞き慣れた声が耳に届き、二人は声の主を探す。
 見ると、反対側の歩道から、光太郎が笑いながら二人に手を振っていた。
「あっ、光太郎さんだ」
(オッサンとは何だ、オッサンとは)
 近くの信号が青になると、光太郎は横断歩道を渡り、二人の元に駆け寄った。
「久しぶりっ。二人でどこに行くんだ?」
「こんにちわ、コータローさん。これから一緒に、ふみこさんのお屋敷に行くんです。コータローさんは?」
「俺は事務所に戻るんだけど、途中まで一緒に行こうか?」
「いいですよ。いいよね、バトゥ?」
「若君がよろしいのでしたら」
「それじゃ、行こっか」
 そして三人は歩き出した。




「そう言えば少年、今日はやけに着飾った者が多いが、あれは何だ?」
 と、バトゥが尋ねる。
「え、どれどれ?」
「あの男女だ」


 バトゥの視線の先には、着物姿の若い女性とスーツ姿の男性の集団がいた。
 どの女性も色鮮やかな着物に身を包み、髪を美しくまとめ上げている。
 そして男性達は、明らかに全員スーツを気慣れていない様子だったが、しっかりとネクタイを締めている姿は、どこか凛々しく見えた。
 そして集団で賑やかにおしゃべりをしながら歩いて行く姿は、とても楽しそうだった。


「あぁ、成人式だろ」
「セージンシキ?」
「そ、20歳になったらみんなで集まって、大人の仲間入りしたお祝いをするんだよ」
「20歳で大人なんですか?」
 エミリオが不思議そうに尋ねる。
「えっ? 普通そうだろ?」
「アルカランドでは、18歳で成人ですよ」
「へ〜、俺の年に成人するんだ。そういう国もあるんだな」
 異文化を垣間見て、光太郎は感嘆の声を上げた。


 アルカランドでは、18歳を成人だと、法律で定めている。
 ちなみに欧州を含めて、世界各国の約半数の国が18歳を成人と定めているので、これは珍しい事ではない。


「ふん、随分と呑気に子供でいるものだな、ニャポニチは」
「でも、みんなで大人になった事をお祝いするなんて、何だか素敵だね」
 感心して、エミリオが声を上げる。
「えっ? アルカランドじゃしないのか、成人式?」
「いや、しないな」
 と、バトゥが答える。


 その言葉通り、アルカランドでは式典を開く習慣はない。
 家ごとや一族ごとで、家族の大人への仲間入りを祝う地域もあるが、あくまで身内だけでおごそかに行うものとなっている。
 近隣の欧州諸国とは違い、社交界デビューなどと言った華やかさのない小国らしい風習とも言えるが、のどかな小国らしいと言えば、穏やかなそれになるかもしれない。
 そもそも、日本の様に、地域ごとに集まって祝う国自体が珍しいのだが。

 
「へぇ、そうなんだ。他の国もそういうもんだと思ってたけど、違うんだな」
「ねえ光太郎さん、みんなで集まって、どうするんですか?」
「なんだ、エミリオ、成人式にも興味があるのか?」
 エミリオの食い付きの良さが嬉しくて、光太郎は楽しそうに笑う。
 彼は意外と好奇心が強く、よく光太郎達が話す日本の文化や言葉などに興味を示すことがある。
 だから、初めて聞く日本の祝い事について興味を示すのも、不思議な事では無かった。




「いえ、大人になるのをみんなで祝うのって、何だか凄いなと思って……」
「と言いますと、若君?」
 と、バトゥが聞き返す。
 不思議そうに自分を見下ろす彼に、エミリオは笑いかけた。
「大人になるって凄くないかな。色々と権利がもらえるんだよ。それは義務や責任はもっと増えるけどそれは、色々認めてもらえるって事だよね。
 僕が大人になれば、今僕が学んでいる事を領政に活かせる機会も増える。そうすればもっと僕の領地…、いや、アルカランドを住み良い地に変えられるずだ。
 それをみんなに祝ってもらえるって、凄くないかな?」


 光太郎は、ポカンとエミリオを眺めた。
 バトゥも驚いていたが、その目は酷く穏やかだった。
「って……、もうっ、恥ずかしいな〜」
 自分を見下ろす二人の視線に耐え切れず、エミリオは真っ赤になった顔を伏せた。
「いや……、酒・タバコ解禁マンセ〜って言ってる奴等に聞かせてやりたいわ、今の言葉」
「ご立派です、若君」
 二人の反応に、エミリオはますます顔を赤らめた。
「そっ、それよりっ! 成人式って、どういう事をするんですか? 教えてください、コータローさん」
「あはは。ん〜、そうだな〜、自治体によって違うんだけど、同窓会みたいな事をやる地域も多いかな。あとは有名人を呼んだりとか」
「へぇ〜」



◆◇◆◇◆




(大人になる、か……)
 光太郎の話を楽しそうに聴くエミリオの姿を、バトゥはじっと見つめていた。
(いずれ若君も、大人になるのだろうな……)
 バトゥは主……いや、幼き友人の未来の姿を想像した。
 その頃には今よりも更に立派な姿に、領地を見事に治める伯爵となっている事だろう。
 一度は命を失いかけた彼だが、今の彼は、自分を取り巻く世界にも、自分に巣食う悪魔にも、自分自身にも負けないだろう。
 あの事件以来、彼は大きく成長したのだから。
(初めてお会いした時には、全くと言っていい程、笑顔を浮かべられる事もなかったのに……)
 目の前で光太郎と楽しそうに話すエミリオの姿に、男は目を細めた。
(あと8年か……)
 彼がまだ幼すぎて、大人になった姿など上手く想像できない。
 8年後なんて遠すぎる。
 だが、遠い未来の彼を思うと、成長した彼の事を思うと、目がじわじわと熱くなるのが解った。


「バトゥ?」
 エミリオに声をかけられて、バトゥは我に返る。
「どうしたのバトゥ?」
 不思議そうに自分を見上げるエミリオと光太郎を見て、慌ててバトゥは目をこすった。
「いえ、何でもありません。目にホコリが入った様で」
「大丈夫?」
「いえ、大丈夫です。申し訳ありません、ご心配をおかけして」
「大丈夫か、オッサン?」
「あぁ、すまない。邪魔をしてすまなかった」
 バトゥが大丈夫だとわかると、エミリオと光太郎は会話を続けた。
 楽しそうに話すエミリオを、バトゥは穏やかな眼差しで見つめていた。



◆◇◆◇◆




 探偵事務所の近くで光太郎と別れると、エミリオはバトゥに尋ねた。
「もしかして僕たちの話、つまらなかった?」
「いえ、そんな事はありません」
 バトゥが答えると、エミリオはほっとした様に、笑いながら息を吐いた。
「よかった。僕たちばかりが話してて、バトゥはちっとも話に加わらなかったじゃないか。だから心配だったんだ。よかった」
「そうでしたか。それは申し訳ありません」
 エミリオに心配をかけてしまった事が情けなかった。
 だから彼を見ていられなくなり、バトゥは目線を逸らした。
「少し考え事をしていまして……」
 エミリオが首を横に振る。
「いや、謝ることじゃない。すまない、バトゥ」


 少しして、エミリオが口を開いた。
「あのね、バトゥ」
「何でしょうか?」
 バトゥはエミリオに視線を戻す。
 彼は、真っ直ぐにバトゥを見つめていた。
「バトゥは祝ってくれるかな、僕が大人になったら?」
 すぐに男は、穏やかに目を細めて返した。
「もちろんですとも。若君のお祝いですから」
 するとエミリオの顔が、パァッと明るくなった。
「ありがとうっ、バトゥ。約束だよ、立派な伯爵になってみせるから、楽しみにしててね」
「はい、楽しみに待っていましょう」


 バトゥは未来を信じたいと思った。
 長く信じる事も出来ず諦め続けていた未来を、エミリオに出会ってからは信じたいと思った。
 その思いが、今、より一層強くなった。


おわり


【あとがき】

成人の日と言うことで、勢いに任せて書いてみました。

すいません、本当は昨日一度アップしたのですが、一晩経ったら色々と直したいところが出てきたため、直して再度アップしました。
(アップしてから誰も見ていない様なので、問題ないですよね。所詮うちはピコピコサイトorz)

最初にアップしたものと、ラストの展開やアルカランドの文化などが、若干異なります。
初めアルカランドの成人は20歳と書いていましたが、今のヨーロッパ諸国の法律や、アルカランドの主要種族・近隣諸国(?)などの事を調べたうえで、18歳に直しました。
やはり約2時間で、勢いだけで仕上げるとダメですね。
遅筆なカメさんは、季節ネタ・誕生祝いなどに対しては、常に1ヶ月以上の遅刻常習者は、無理をしてはいけませんねf^_^;

そしてこれでも直したのですが、描写やセリフ回し、展開が雑すぎますorz
次の話は、もっと練ってから書きます。

本当にこの話は、成人したエミリオを想像して、じ〜んと来ているバトゥさんが書きたかった、その思いだけで書きました。
きっとバトゥさんは、エミリオが成人した姿を想像して、ホロリと来ちゃうと思うんですよ。
だって友達で家来でもありますが、「お父さん」の様な気持ちもありますから。

そう言えば『大人になっても側にいて』みたいな約束は、確か月神さん&蝶野さんの合同誌にゲストさせていただいた時に書いた小説でも、最後に何か約束してた様な、この二人……。
話の展開に進歩ないですね、たはは( ̄▽ ̄;)


そしてネタを考えた当初、これは変なギャグの予定だったなんて、誰が信じるでしょう?( ̄▽ ̄;)



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