[携帯モード] [URL送信]
10.XANXUS


「名前」

そう呼ばれればついていく。
彼の後ろをただひたすら追っていく。


いつも通り、進んでいた。

彼が一人で悩んでいた。
そして、行動した。
無論、私には何も言われなかった。
その優しさが痛かった。

彼が揺りかごを起こして氷漬けにされてた時。
彼が指輪に拒絶された時。

何も出来なくて、それが悔しかった。

『氷の華』
気が付けばそれが通り名と化していた。
けれど、それでは、彼の炎で融けてしまうと自嘲気味に笑ってしまった。

地道に任務をこなしてヴァリアーの機能を復活させたのが昨日今日に感じる。


「XANXUS…?」

重々しく古臭い扉を開けてそろりと中に入る。
任務から帰ってきた。
と、聞いたから来たのに中は真っ暗だった。
行くな。
と、言われたのに来てしまった。

「名前、こっちに来るな」

睨まれた。いつも睨まれてるから慣れっこだった。
けど、床に視線を下ろして初めて気が付いた。
女物の青いドレスや下着が床に点々と落ちていて、
静まり返った後にシャワーの音が聞こえる。
暗闇に慣れてきた目には、
クシャクシャになった行為後を連想するようなベッドがある。

「お邪魔してごめんなさい」

それが一層、胸を苦しくする。
なんで変われないんだろう。

XANXUSの部屋に漂うほかの女の匂いを振り払うように廊下を走った。

甘ったるい香水から浮かぶ想像に、
一番嫌悪している部類の女。

相手の女は娼婦だろうか?本命?セフレ?

どれにしろ、吐き気がした。
足が絡まって廊下に勢いよく転ぶ。

かっこ悪い。そう思った。


「な゛んでっ…女連れ込んでんのよ…!」

「う゛ぉぉぉい、だから、言ったんだぁ…。
ガキにはまだ早ぇ」

抱き上げられて、正面からすっぽりと収められた腕は愛しい人とは違った。
香る物は、居心地のいいものだった。


「もう25!れっきとした女なのよ、私だって…。
というか、あんた達と同い年!」

ボロボロと涙が頬を伝う。

例えば、味方に死傷者が出ようとも泣かない。
それが誰であろうと自業自得だと一蹴するのが自分だった。
その感情を一つ二つと増やせるのはヴァリアーでも2人だけ。
『氷の華』が笑うのは、あの人達の傍だけ。
そう謳われているらしくボンゴレでは遠巻きに見られている。

「あ゛ぁ…泣くな、うるせぇ。
何度言えば分かる、てめぇは敬愛でクソボスが好きなんだぁ。
氷の華が聞いて飽きれるな。
そんなに『幼馴染様』が大事かぁ?
闇に身まで染めて」

「大事だもの。
大切なの、後悔した過去はなくならない。
あなたたちの残した優しさが私には痛かった」

睨みあげればたいして怖いと感じてもないくせに

「怖ぇ、怖ぇ」

と目線を逸らされた。

「馬鹿じゃないの」

そう言った瞬間に目の前に、
ガラス瓶の様なものが飛んできて私を抱いていた人の頭にクリーンヒットした。

「名前、来い。話がある」

「んな゛…、てめぇ、クソボス!!!」

「名前」

痛みに悶える床に伏した人は目に入らない。
見つめる先には、黒髪赤目の彼のみ。
呼びかけられる声が、すごく甘ったるい。
彼が甘やかす時に使う特有なものだと分かれば一目散に飛んでいく。
甘美な声。分かって使ってるから性質も悪い。

けれど、二の足を踏んでその場から動き出せない。

「名前」

きっと、任務の話だ。
勝手にそう結論付けてから仕事の顔に戻る。

「そっちのてめぇと話したい訳じゃねぇが…。
まあ、いい。ついてこい」

「はい、ボス」



友情、恋情、愛情を全て敬愛に変える。

ずっときみの大切な幼馴染みでいること


それが、私の全てだ。






61/61ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!