7.沖田 アイツに出会ったのは、近所にある川の土手だった。 「馬鹿みたいでさァ…」 「何がですか?」 唐突だった。 声を掛けられたのを覚えている。 でも、二月か三月経った頃。 逢瀬を重ねてたはずだった彼女は姿を消した。 土手で何度も出会って、お互いに惹かれてたはずだ。 俺の前から姿を消したんだ。 なのに、街を歩いているとアイツが男と歩いていた。 「本当に、酷い人ですねェ。あんたって人は…」 「何の事ですか?」 「そうやって男誑かして、何が楽しいんでィ」 「誑かす?」 目の前のその人は、眉を顰めた。 「万事屋の旦那にも色目使ってんだろうっつてんでさァ」 「銀ちゃんは、昔馴染みですよ?」 「じゃあ、マヨ方にはどうなんでィ。 なんで仲睦まじそうに寄り添ってたのか説明出来るんですかィ」 「彼は、私が倒れたのを助けてくれたんです。 何で、そんな風に辛そうな顔して尋問みたいな事をするの?」 そっと頬に伸ばされた手は雪みたいに白く、冷たかった。 「あんたの色香に惑わされねぇようにしてるだけでィ」 「私にはあなただけいればいい、 …そう言ったのを信じては貰えない?」 つぅっと撫でられた肌。 着物から香る匂いはいつもと同じ。 ただ、違うのは彼女が透けているという事。 「俺ァ、あんたの名前すら聞いてないんでさァ」 「私は死人なの、教える名は当の昔にないわ」 「死人?んな、話信じれると思ってるんですかィ? じゃあ、なんで旦那には教えてるんでィ」 「だから、言ったでしょう?銀ちゃんは昔馴染みだって」 「それがなんなんでさァ」 「私を教師だと思い込んだのは、あなただけよ。 だって、私はただの花魁。 昔馴染みで銀さんにはお世話になったの。 足を洗ったのは病気のせい…」 「で?」 「その病気で私は死んだわ…。 あなたや彼らに引き寄せられたのは、きっと死へ近いから」 「なんなんでィ…。ほんと、性質の悪ィ」 「でも、私が惹かれたのは貴方だけ。 彼や貴方のそばにいると実体がもてるのよ」 「一生、俺に憑いててくだせぇ」 「えぇ、勿論。あなたが伴侶を見つけるまでね」 「伴侶なんて持つ前に、死んじまうかもしれやせん」 「そんな事は、言わないで」 悲しげに笑った彼女は俺の肩に手を回す。 あぁ、なんでこうも俺は馬鹿なんだ。 逃げられない離れられないでも叶わない ← → [戻る] |