5.スクアーロ
『ねぇ、スク!跳ね馬!』
『あ゛、何の用だぁ?』
『どうかしたのか、名前』
『なんでもないよー。
そうそう、跳ね馬狙いのスナイパーがいたみたいだよ』
何年も前の夢を見た。
あの頃は子供で、こんな未来を予想していなかった。
恋焦がれる人は月に数度会えればいい。
織姫や彦星のように1年に1回なんて耐えられないけれど…。
それだけでも、ラッキーだから。
私のファミリーが壊滅へと追いやられ、
逃げ延びた先が此処《ボンゴレ本部》
今では暗殺部隊へデーチモからの依頼を代理として届けたり、
若きデーチモが処理に追われている書類を負担したり、
雑用兼秘書をやっていたりする。
「う゛ぉぉお゛いぃ、書類出しに来てやったぞぉ…」
乱雑に扉が開けられたかと思えば、
部屋にズカズカと入ってくる想い人の姿。
銀糸の様な髪をグシャグシャと掻きながら、こちらを見つめてくる。
今は、仕事中なのだ。
そう心の中で繰り返し呟いて相手を見据える。
鳴り響く心臓音に緊張しながら口を開きなんとか、声を絞りだす。
「ボンゴレへの報告書なら、黒の方にお願いしますね」
目の前に置かれている黒・赤・青のケースを指差して示す。
「あ゛ぁ…」
戸惑いながらも不器用に置きおえると、
釣り上がった目でこちらをまじまじと見つめてくる目前の人物を見つめ返す。
「名前、なんでんな愛想悪ぃ゛んだぁ…」
つかつかと近づいて来たかと思えば
髪を一房優しくとりそこに恭しく口付けるスクアーロ。
…その行為だけで、心臓は目まぐるしく高鳴るのにそれを知るのは自分ひとりだ。
「今は仕事中ですから、スペルビ・スクアーロ様?」
平常心をなんとか保ちつつ、
動揺を隠しながらニコリと笑みを浮かべる。
「馬鹿名前…、
てめぇ感情だだ漏れ゛くれぇ気付けぇ…。顔、赤ぇ」
「へ!?そんな訳ないでしょう…」
まさか顔が赤いんだろうかと近くのガラス窓を盗み見る。
あれ、赤くない…。
「ほら゛なぁ゛…」
声を殺して喉奥で笑う相手を睨みつける。
「スク、用は済んだでしょ?」
「まだ済んじゃいねぇ…、今夜、暇かぁ?」
突然の申し出に目を見開くと、馬鹿にしたように笑われた。
きっと、色気がないと笑ってるんだ。
「大量の書類で寝る暇はないわね…」
ふぃと顔を逸らしわざとらしく溜息を吐く。
「んなもん、他の奴にやらせとけぇ…。
今夜6時に迎えに来るからな゛ぁ…!準備しとけよぉお」
遠のいていく足音にほっと溜息を吐く。
……忙しなく動いていた心臓がやっと静かになった気がした。
意識してるって気づかれたら終わりだね
恋の神様がいるのなら、
これ以上深みに嵌らせないで。
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