アコガレトコイゴコロ(GL) ふわふわとした心地いい陽気だった。 顔を近づければ近づける程に、目を奪われる。 自分よりも長くてくるんとした睫毛。 鼻筋はすっと通っていて、薄い唇。 さらりとした細くて柔らかい髪。 正反対な彼女。 そんな彼女に、キスをした。 ほんの少し触れるだけ。たったそれだけ。 だけど、緩やかに波を打ってた心臓が今度は壊れんばかりに鳴り響く。 つーっと汗が頬から首へ伝う感覚がした。 そよ風が教室のカーテンをゆらゆら揺らす。 その空間にいるのは、二人だけ。 たった二人だけ。 聞こえるのは、部活で居残ってる生徒達の遠く離れた掛け声ばかり。 わたし達だけがそこにいた。 わたしは、あの子が好きだった。 これが思春期独特の何かである事も、 ただの憧れを勘違いした恋心のような事も、 頭の中にいるわたしは理解していたつもりだった。 「…ん、んー。…み…っ…ちゃん?」 ゆっくりと目を開けた彼女が戸惑いに目を揺らす。 ビー玉みたいに透き通った純粋な目がこちらを見る。 そんな彼女はいつになく驚いた表情だった。 ねえ、お願い、お願いだから。 こっちを見ないで。 邪なわたしの心が見透かされたみたいだった。 心臓が今度は嫌な音を立てて跳ね上がる。 「…どうしたの?」 「……なん…で…もないよ?」 「…そっか。顔近いからびっくりしちゃった!」 数秒の空白後、にこりと彼女は微笑んだ。 わたしが大好きな彼女の笑みだった。 でも、なんとなく彼女の作った笑顔がぎこちないように感じた。 「そろそろ、いっくんたちの練習終わるかなー?」 「…うーん、そろそろだと思うよ?ほら、佐山くんたちもう集合してる」 彼女の視線の先には、さっきまでサッカーをして走ってた彼女の彼氏がいる。 もう彼女の視線は、夢のものでも、わたしのものでもなかった。 「ふふ、ほんとだ。…あ!いっくんたち、気付いたみたい! ほら、みーちゃんも手振ってごらんよ!」 「わたしは、いいよ……ほら、その、恥ずかしいし…」 「もー!そんなに奥手だと誰かに取られちゃうよ?」 針でぷすりと心臓が刺されたような気分になった。 たった一言で傷つく自分がいる事を知った。 「…そ、だよね」 「ごめんね、こんな時間まで付き合わせちゃって」 「ほら、わたしは倉橋くん待ってるだけだから。 ゆーちゃんも大変だね。佐山くんってエースなんでしょ?」 「だってサッカーだけがいっくんの取り柄だもん」 夕日がオレンジ色に教室を照らす。 その日、わたし達は並んで歩きながら4人で帰った。 幸せそうに笑う彼女の隣。 その席はわたしじゃなかった。 でも、いいの。 その笑顔だけでわたしは幸せ。 ← → [戻る] |