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初恋知らず(エース)





私が恋をしたのは、
死を迎える人だった。

自然の原理ではある。だけど、受け入れ切れない。
愛してしまったから。

元から、自分が誰かに触れると死に方が分かる。
そんな奇特体質に生まれてしまった。
ただ、間接的に触れれば見えないことも分かり手袋は必須だった。

そして、前世からの記憶でこの世界が創造物であり、
誰かに生かされている身なのも自覚している。

そんな私はがむしゃらに恋を望む事もなく、
戦闘に明け暮れていた。

転機が訪れたのは、
スペード海賊団船長がお父さんに挑んできた事だった。

「馬鹿ね」

――…ザパァァンと大きな音を立てて波が上がった。

その度に海へと放り投げられ、
それを引き上げるのが、自分の役目になっていた。



「名前、いいじゃねぇか。夢がある!」

豪快に笑って言うお父さん。

「手袋が濡れて気持ちが悪いんですよ。知ってますよね?」

「潔癖症にも程があるよい」

南国フルーツに突っ掛かられて、鼻で笑った。

「海に突き落として差し上げましょうか、お兄ちゃん?」

特異体質がもう一つ。私は、ずっと成人しないらしい。
体が成長を見せなくなったのはいつからだったか。
歳も見た目と反比例している。
30そこそこの筈が、未だに少女のような容姿。
新しい人にはナメられて馬鹿にもされる。

「名前に負けたら名折れだよい。
つか、お兄ちゃんとか呼ぶキャラと歳じゃねぇだろ。
親父に挑んでるエースって奴起きたから相手してみろ、勝負はそれからだよい」

自分の武器である、小型銃を抜いてナース室へ向かった。

「あら、名前お疲れ様?」

「うん…、疲れた。
手袋の予備と彼の様子を見に来たんだけど…」

「うるせェ!俺は白ひげを倒しに来たんだ!」

「エリザ、もしかして此処でも手こずってる?」

「ええ、後少しで逃亡してくわよ。
名前、捕まえて頂戴?戦闘員なんだもの朝飯前でしょ?」

「朝飯も何も、食べれてないのに」

高みの見物でもするエリザに笑い、
暴れだしたせいで揺れるカーテンを見つめた。
濡れた手袋を外して、様子を見る。

「名前は、いるかい?」

「イゾウさん、どうされたんですか?」

「朝飯だ。食べてなかっただろう」

持って来てくれたプレートの上には、
小皿に盛り付けられたサラダにパンとスープが乗っている。
しかも、いつも食べているものだった。

「サッチさんですか」

「ああ、サッチが名前の朝食セットだと言って持たせたんだ」

「ありがとうございますって伝えておいて下さい」

プレートに乗ったそれを手が触れないように、
慎重に受け取ってから笑みを浮かべた。

「分かったよ。ああそうだ。入るかもしれねぇ奴の世話任せたよ」

それに応える様にイゾウさんが笑みをくれ、医務室から去っていく。

「てめェ、離せよ!この野郎…!」

ゾオン系の能力者だったか…。
カーテンに火が灯り、黒髪の彼は逃げていく。

「名前、任せたわよ?」

「うーん、面倒くさい」

「行ってらっしゃい!名前さん」

「ルーシャの頼みなら」

「あら、ちょっと、聞き捨てなら無い単語を拾ったけど?」

茶髪や金髪を持った可愛らしい彼女達に、
手を振って医務室を彼の後を追って出て行く。

所々、焼け焦げた後がありそれを頼りに追っていく。
食物庫で蹲っている彼を発見して近寄った。

「ポートガスくん?」

「…なんだ、名前かよ」

「なんだとは何よ?
というか、もういい加減入っちゃったら?」

「勧誘か!?」

「南国フルーツが煩いのよ」

そう言えば、頭のてっぺんにはてなマークを浮かべたような顔をされる。

「金髪の、いるでしょ?お父さんの傍に」

「ああ、いるな」

「手合わせして来いって無茶振りするしね」

「名前はどうなんだよ。俺が入ってもいいのか?」

真剣な瞳を向けられて、不覚にも心臓が跳ね上がった。

「私は貴方を家族として迎えたいって思い始めてる」

「お前、白ひげの女ってのは本当か?」

「娘よ。本物でもないけど。
彼が受け入れてくれて私は此処にいるだけ」

「そうか…」

「自分で決めなさいよ?末っ子エースくん」

「なっ!待て!手合わせするんじゃねぇのか」

「じゃあ、甲板に行くしかないんだけど…」

「行くぞ!名前」

手を持たれた。
無防備に曝け出した素肌に、彼が触れた瞬間。
頭の中に映像が流れ込む様に浮かぶ。

何かを言いながら誰かを腕へ抱きしめて泣いていた。少し成長したもののまだ若い彼。

ああ、知ってしまった。

「…?どうしたんだ?お前」

足が止まったのを不思議に思ったんだろう。
エースがこちらを振り向いて

「……なんでもない。手、離して?」

パッと離された手に安心する。
何も無い背中に大きな旗印を掲げるのはいつ?
今夜?明日?明後日?
遠くない未来。彼が死ぬ事に涙が出そうになる。

甲板に着くと、向かい合わせになって戦闘体制に入った。
あー…銃ないんだった。
手袋をはめて準備を整える。

「エース、あんたにいっぱい私達が愛をあげる。
だから、守らせて欲しい」

「何言ってんだ!つか、女に守られる趣味はねぇ!」

早く戦えと囃し立てる声が上がり、
同時に地面から離れて肉弾戦が始まった。
彼から繰り出される炎を避けて、回し蹴りを決める。
海水で湿っているせいで彼に打撃を与えられ安心した。

「私だって、男に守られる主義じゃねぇっての」

向けられた拳を避け、
腕を掴んで背負い投げ紛いの事をする。

彼が飛んでいった先には、マルコが居て不死鳥になって避けた。
そして、そのまま甲板に大激突。

「…いってェ!!!!」

「マルコを恨んでね?あいつが避けなければ大激突避けれたもの」

「よく言うよい。確信犯だろうが」

降り立ってきたマルコに、ヒクリと頬の筋肉が引きつる。

「グラララ…!面白い事してるじゃねぇか」

「そうですねー、お父さん」

お父さん、そう呼ぶと再び笑って大きな手で抱き上げられた。

「それで、エース。お前は入る気になったか?」

「…あぁ」

ポソリと小さく呟かれた言葉にガッツポーズを決めたサッチを見つけた。

「そりゃあ、いい…!今日は宴だ、息子共…!」

「娘はその中に入ってます?」

「お前もだ、名前」

「よかった」

「イチャついてねぇで、さっさと降りて来るべきだよい」

尖った唇を更に尖らせているマルコの元へ降り立って、

「やきもち?」

と言ってやれば、怒り出した。

「エース!!」

「白ひげを親父って呼ぶべきなのか?」

「彼が息子とあなたを呼んでるなら呼ぶべきじゃない?」

すくりと立ち上がったエースを見つめる。

「親父!!!よろしくお願いします!!!」

その瞬間、甲板に集まっていた船員から雄叫びが上がった。

「よかった…」

「今晩は宴だぁぁぁあ!グラララ・・・、精一杯歓迎してやれェ、新しい息子だ」

「「おおぉぉおお!!」」

それからは、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎが始まった。
機会があれば、何かを名目に宴は行われた。
楽しくて楽しくて仕方が無い。
幾日も経てば、エースはもう白ひげ海賊団の仲間入り。
そして、隊長となった。

「エース、平気?」

「また、こいつ食いながら寝ちまったんだよい」

「ったく、隊長格の名が泣くわね」

「はっ!俺、また寝てたのか!」

パンと鼻風船が割れて目を覚ましたエースに、
イゾウさんからの叩きが命中した。

「そういえば、なんでお前が此処にいるんだよい」

「島が見えたらしいんでご報告ですよー」

「「「もっと早く言え」」」

「はい、すみません」

「名前!今日こそはお前と回るからな!」

「はいはい」

「本当に、お前さんらは姉弟みたいだ」

「なっ!ルフィに知らせねぇと!」

彼がバンっと机を叩き立ち上がる。

「るふぃ…?」

「俺の弟だ。あいつも今頃海に出てるはずでよ」

「へぇ…。兄弟揃って海賊かぁ」

「おう」

ニカッと笑んだ彼が誇らしそうに笑う。
いつの間に、恋をしたんだ。

そのくらいあっという間に、私は恋情を覚えた。

愛しくて、愛しくて、とても切なくなった。





「エース、いなくならないでね」


「おう、名前は寂しがりか?」













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