[携帯モード] [URL送信]
午時葵の花束(白ひげ)





水中を進んでいく船へとゆっくり近づいた。
コーティングの中へ進み船内を闊歩する。


暗闇に浮かぶ懐かしいシルエットに近づくと微かにその巨体が動いた。

まるで亡霊が彷徨うように気配を消して、
少し動けば気づかれる距離まで移動する。
…いきなり、ギロリとその鋭い目に睨まれて立ち竦んでしまった。


「グラララ、誰かと思えば。いつからそこにいた?
久しいな、じゃじゃ馬娘」

「ついさっきから。私が出て行ったときより、ちょっと老けたんじゃない?父さん」

濃く刻まれた皺に手を伸ばし

「お前ェが出て行って何年経ったかなんてもん忘れちまった、名前。
ほんの少し貫禄が増しただけでちっとも見目は変わらねぇ。
あいつらが知ったら驚くだろうよ」

「3年よ?…父さん。その名前で呼ばれるのは久しぶりかな…。
これでも、結構大人の女に成長したつもりなのに」

「『予言の魔女』なんて名を貰ってるらしいじゃねぇか」

知られていた事に笑みを浮かべた。
そしたら、目前の男もニヤリと笑う。

「明日、家族であるエースを助けに行くんでしょう?」

「ああ、それで……来たのか」

「だって、彼を愛してる人の中に私が含まれてないなんて笑っちゃうじゃない」

今も、鎖に繋がれているだろう彼を思って目を伏せる。

「死ぬ覚悟はあんのか」

「…勿論。未来ある仲間は置いてきたわ。
船を降りる事にだって了承してくれた。
…部屋って…、まだあるかな?」

「マルコの部屋の隣にきっちり残ってらぁ…。
明日、エースの処刑場となる海軍本部に傘下の海賊共と入る。
気ぃ抜けば命を落とす戦争だ、油断するんじゃねぇぞ」


あなたに予言を残したはずなのに。
なんで、戦地に赴いちゃったの―…?

エース、あなたの命を救いたい。
父さんの命も救いたい。
でも、もしかしたら、希望があるのかもしれない。


「分かってる。これ、受け取って」

「花?…お前ェ、これの花言葉分かってて俺に渡そうってのか?」

手の中にある午時葵の花束はまだ蕾の状態だ。

「置いてくなんて許さない。私は明日死ぬかもしれない」

白ひげこと娘として私を迎えてくれた第二の父は、
優しく微笑むこともせず私をただ見つめる。
そこにあるのは、巻き込む事への悲しみなのだろうか。
私には、分からなかった。


「だけど、運命だけは絶対に変えたい。それに、大好きな父さんの傍で死ねれば満足だもの」


その夜は父の傍らで久しぶりに眠った。
とても安らかで、心地がよかった。









―――…待っててね







41/61ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!