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陽炎はゆらゆら揺れて(親世代獅子寮)







あなたを好きだと。
嘘吐きな私の口がその言葉を吐き出す度に反吐が出る。
それは、とても滑稽だとさえ思うのだ。
縋るために愛の言葉を囁いて、傷つかない様に嘘を纏う。


"あなたは人を愛せないのよ。一生ね"


母は笑いながらその言葉を幼い私へ言い続けた。
…私がそれを忘れ去った頃に、母は私に再びこの呪いを遺して逝った。
魔女の母の元を去ったマグルの父。そんな父に似た私を恨んでの事だろう。

それは、まるで地獄へ引きずり込もうとする死者の足枷のようだとさえ思えた。

私には人を愛せないのだ。
私は恋にも堕ちる事はないし、その愛が何なのかすらも見いだせない。

本当に自分が好きか?と問われても口を噤んで答えられない。
ええ、好きよ。と肯定してもそれは嘘のように思えてしまう。

あなたが見ているのは私じゃないのよ。
心の中で闇にいる自分が囁きかける。

誰からも、本当の自分は見られたくない。
誰かに本当の自分を見つけてほしい。

矛盾した心はゆらゆら揺れる。







「………はあ」

別れるための言い訳をするのも、別れを切り出されて冷静な自分を演じるのも、
なんだかすごく馬鹿らしくて疲れてしまった。

痛むのは頬か、心か。それは分からなかった。
むしろ、全身が痛いけど。

根っからの恋愛体質だと人からは言われているみたいだけど、
私は恋愛なんてきらきらしてるものとは無縁だとすら思う事が多かった。
あんなに輝いてるものは霞んだ私には似合わない。

「あら、名前じゃない。大きな溜息吐いてどうしたの?」

赤毛がトレードマークの美人が本を抱えて私の方へと寄ってくる。
そんな気の強い友人に声を掛けられてそちらを見上げた。

「どうも、エバンス」

「リリーでいいって言ってるじゃない。……また、怪我してるじゃない!!」

ぐりんとリリーの手が私の顔を彼女の方へと向ける。
首筋がピキリと音を立てた。

「はぁい?リリー」

「呑気に挨拶なんて頭まですっからかんになっちゃったのかしら?
……さあ、名前。保健室へ行くか、ここで治療か。
どちらか選びなさい、今すぐに」

「そんなに私って馬鹿っぽい?」

呑気に返せば、リリーが心配していた顔から凍ったような笑みを浮かべた。
それは、それは、にっこりとした笑みだ。
このブロンドが私を馬鹿っぽい。そう思わせるなら、今すぐに染め上げてしまいたい。

「い・ま・す・ぐ・にって言ったわよね?」

「保健室に行ったら大事になるのは目に見えてる」

「もう、あなたは…。これっきりよ?救急箱を持ってくるわ」

リリーが傍を離れ女子寮への階段を上っていく。
待っている間に本でも読もう。
そう思ったのに今度は別の人がその集中を遮った。

「また、無茶したんだって?」

「…何の話?」

ちらりとピーターの方を向くと、大袈裟に驚いてリーマスの後ろへと隠れてしまった。

「ピーター、内緒にしとくんじゃなかったの?」

「ご、ごめん。名前。ジェームズ達に問い質されて、つい」

「しらっばくれるのは止めとけよ」

「なんていったって僕らは「悪戯仕掛人だ、でしょ」…参ったな、決め台詞なのに」

ああ、面倒くさいのに絡まれた。
誤解を招くようだが彼らとの仲は良い。けど、今は面倒ってだけ。

「奪ってごめんなさいね。話は終了でいいでしょ?」

「君ってエバンスと話してる時とは随分と落差があるよね」

リーマスが口を開きやれやれと呆れた口調で苦言を呈す。

「当たり前。彼女は特別。…本、返してくれない?」

手元にあった本は、色男から次々と四人の手に回っていく。

「随分と古い本を持ってるんだな」

にやにやした笑みを浮かべるシリウスは興味深そうにページをぱらぱらと捲る。

「…まあね。言ってなかった?それ、忌々しい母の形見だって」

場が凍る。それはもう、暖かな談話室がしんと静まり返るくらいに。
あっさりと返されたのは、幸いなのか不幸なのか。

「名前、早く治療するわよ?…ちょっと、どうかしたの?」

降りて来たリリーが異様な雰囲気に眉を潜めた。

「なんでもないから、気にしないで。リリー」

緩やかに彼女へと微笑んでハグをする。
彼女の体温は暖かかった。

「リリー!僕の女神が、名前の毒牙に!「ジェームズ!!」」

ぴしゃりと遮ったリリーが彼女の恋人であるはずのジェームズを睨み付ける。

「プロングス、今は諦めろ」

「ああ、分かってるさ。パッドフット」

ひそひそと話す仕掛け人達を傍目に、リリーが隣へ腰を掛けた。

「じっとしてて頂戴ね、名前」

「優しくしてくれれば大人しくする」

「前だってそう言って途中で逃げたじゃないの」

「それは、リリーがこういう事をした犯人を問い質そうとするからで…っ、イタ」

まだ傷は塞がっていないせいで、むず痒い痛みが染み渡る。

「ほら、じっとしてて頂戴」

「んふふ…。今にもキスできちゃいそう」

「ふざけないの」

「はーい。……ねえ、リリー。あなたは幸せ?」

「…そうね。あんなにも思ってくれる人がいるんだもの」

ジェームズの方を向くと、そわそわと落ち着きがなくなっていて笑えてしまった。






「私にもそういう人、出来るかな」

「できるわ。きっと…。さてと、早く終わらせるからこっちを向いて」





















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あきゅろす。
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