paint it black down
僕、木谷麻琴は中学の3年の頃から露骨な虐めを受けるようになった。それは僕が皆とは明らかに違ったからだ。多分、見られていたのだと思う。あの出来事を。だから、クラス中、学年中が僕を避けるようになった。それはとても露骨で既に僕への虐めは担任の先生までが知る事態だ。それでも、虐めが終わらないのは担任が見て見ぬふりをしているからだ。
「木谷ぁー」
この頃は誰も名を呼ばないから、まさか名を呼ばれるとは思いもせず木谷麻琴はぴくりと肩を震わせた。
「聞こえてねーのー? きぃーやぁーくぅーん」
間延びした声に顔を向けると鮮やかな金髪が視界に入った。有名な彼は同級生の古谷太壱。学校一の不良だ。少し長めの髪を耳に掛けるように弛く右側だけをピンで止め、バランスの取れた綺麗な顔にとても似合っている。取り巻きの不良仲間と居る彼は人を寄せ付けない雰囲気を相変わらず纏っていた。
そんな彼が特の取り柄もない僕に何の用だろうと「はい」と返事だけをすると、古谷はちょいちょいと指で僕を招いた。
戸惑いながら古谷の傍まで行くと彼の故知から驚く言葉が発せられた。
「君、見てるだけで苛つくから殴らせてもらっていー? 」
へらりと笑うその瞳は全然笑っていない。
麻琴が返事も出来ずに居ると嘲るような笑い声が鼓膜を震わせた。
知らずに下がっていた視線を古谷に戻すとお腹に鈍い衝撃が走る。
「ぐっ! 」
くぐもった声が漏れ、麻琴はガラガラと机を倒して地面に倒れた。背中に当たった机や椅子は麻琴が倒れた拍子に一緒になぎ倒され、それをクラスメイト達が囃し立てるように麻琴へ軽口を叩く。
「散らかすなよー、ちゃんと片付けてくれんのー? 」
「いやいや、寧ろ触って欲しくないっしょ?! 」
「そうそう、消毒しなきゃなんねーじゃん」
ゲラゲラと何が楽しいのかクラスメイト達は手を叩いて笑う。
「はいはい、木谷くん、ちょっと出ようかー」
古谷は笑わない笑顔で教室の外を指差す。
「…………」
こくりと頷いてノロノロと立ち上がって、先に出た古谷について麻琴は教室を出た。
まだ登校時間ギリギリの時間。予鈴の鳴る前にと教室に急ぐもの達、教師が来るまで廊下でふざけ合っているもの達。たくさんの人の目の中麻琴は校内一の不良に連れられて裏庭へと来た。古谷が歩みを止めると、麻琴も一定の距離を開けてそれに習う。
「ねえねぇ、君って売りやってるって本当? 」
「…………」
直球の質問。答えられなくて麻琴は俯いて唇を噛んだ。
「それは肯定と取って良いの? 」
ふるふると首を降って否定するも、古谷は麻琴から言葉を引き出そうとする。
「でも、ホテルから出てきたって、男と」
そんなところから見られていたのかと麻琴は身体を震わせる。
「なぁーんだ、やっぱ本当なんじゃん」
ふふふっと笑った古谷は、やっぱり笑っていない。
「じゃあさ、俺の相手もしてよ」
「……え? 」
思いがけない言葉に、麻琴は全身の血が下がるのを感じた。
この人は、何を言っているのだろう?
相手……?
誰が、誰の……?
「だって明らかに女より面倒臭くないじゃん、ゴム着けなくてもいいし、売りやってんなら問題ないっしょー? 男でも気持ちいいって聞いたことあるし」
古谷の言葉に麻琴は絶句するしかなかった。否定したいのにカラカラに乾いた喉は張り付いたように動かない。
あれは売りなんてものじゃない。強制的に足を開かされ、強制的に受け入れさせられているのだ。義理の、父に。
「ち、違う……体なんて、売ってない」
ようやく途切れ途切れに否定するが古谷は既に聞いていない。
「ふーん? そうなの? 」
諦めてくれたのかと思ったけれど、そんな甘い筈はなかった。
「まぁ、関係無いけどね、勃たせてみて」
耳を疑うような言葉にぎょっとする間もなく、髪を鷲掴みにされ、引き摺るように股間に顔を押し当てられる。
頬に布越しの柔らかい感触が伝わってくる。
半ばパニックになり、ぐるぐると言葉にならない感情が身体を支配する。
どうして義父も、目の前の古谷も、お世辞にも可愛いと言えない平凡なこんな男の僕を性処理に使うのだろう? 確かに人とは違う性癖は持っているし、元々それが原因で義父に関係を迫られたのだけれど、気持ち悪いと蔑みながら男を抱くなんてそもそも不毛だ。……だけど、僕の心を傷つけ、陥れるのが目的なら確かに間違えた選択ではない。
「なぁーにしてんの? 固まってても終らないよー? 」
そう言って、古谷は自ら前を寛げるとまだ萎えたそれを麻琴の口へ持ってくる。思わず顔をしかめてしまったのを見られたのか古谷は少し苛ついた様子で麻琴の口を無理矢理開けそこへ自身の萎えたものを突っ込んできた。
「うぐっ」
「歯ぁ立てないでね? 立てたら分かってるよねー? 」
ゾッとする黒い笑顔で告げられると麻琴はもう逆らえなかった。まだ萎えたそれを義父にするように舌と手をを使って一生懸命舐め擦るとピクピクと古谷のものが震えて大きくなる。
早く終わってほしいと願いながら、裏筋や尿道を必死で刺激すると古谷が息を吐いた。
「……っん」
それを良いことに早く終われと奉仕を続けていると、古谷はおもむろに麻琴の髪を掴んで勃起したそれから剥がす。そして麻琴の身体を無理矢理反転させて地面に倒した。
「うわっ……あ、イヤだ! 」
手を着いて衝撃を和らげたために痛みはそれほどないけれど、反転させられ押し倒された瞬間に、自身の身体がどう使われるのかを悟る。
ギリギリと背中を圧迫され抵抗する間もなくベルトを外されズボンを下着ごと下ろされた。
男の抱き方を知らないのか麻琴相手にそんな労力を使うのが癪であえてしないのか、準備をしないまま古谷は勃起したそれを後孔に宛がうと躊躇いもなく押し進んできた。
「ひっ! いあ"っ」
血の気が引き、余りの痛さにどっと嫌な汗が吹き出る。中心から身体を引き裂かれるような悶える痛さに、声さえまともに出なくて必死で歯を食い縛った。ギリギリと剥き出しの地面に爪を立て血が滲むけれどそれすら気にならないほどの痛みが麻琴を襲う。
「くっ、きっつ……力抜けよっ! 」
ばんっと力任せに叩かれた背中は熱を持ち、じりじりと痛みに身体を焦がす。麻琴は必死で息を吐き自らも痛みから逃れようと身体から力を抜こうとするけれど、痛みに身体が言うことを聞かない。
「や、やだっ……無理……くっ」
それでも無理に押し入ってくるそれに、麻琴の後孔がプツっと音を立てて切れたのがわかった。痛みに視界が赤く染まるような錯覚さえ覚え麻琴は砂を掴んで耐えるが、古谷はそれさえも嘲笑うかのように容赦なく血で滑りの良くなったそこに自身を突き立て、休む間もなく激しい抽挿を開始する。
泣きたくはないのに、瞼の裏が熱くなって涙腺が緩んでくるのがわかる。
イヤだ。泣きたくなんてない。
こんなこと、無理矢理受け入れさせられるなんて、僕の日常じゃないか。なのにどうして涙なんて出るんだ。
いやだ、助けて、たすけて。
人気のない校舎裏、ざわざわと風に揺られら木々の音。遠くで本鈴が鳴っている。
肌の擦れ合う音が更に激しさを増すと、古谷は麻琴の中にドロリと熱い体液を吐き出した。
「あー……孔があれば女も男もあんまかわんねぇーのな」
ズルリと麻琴から出ていくと、古谷は笑いながらそう呟いた。力の抜けた麻琴はそのまま地面に転がされ、とどめにお腹を足で思いっきり蹴り付けられた。呻き声をあげて仰向けになった身体に足を置かれて、麻琴は下半身剥き出しのまま身動きがとれない惨めな状態を晒すしかなかった。
「よいしょ。ハンカチ貸してねー」
古谷は笑いながら麻琴の制服のポケットからハンカチを出すとそれで軽く自身を拭う。身支度を済ませてゴミのようにハンカチを地面に捨てる様を、麻琴は何も言えずに見詰めるしかない。
何だか全てが遠く霞がかったようで現実味が全くなかった。それでも、身体の痛みはそれが現実であると麻琴に知らしめる。
「また相手してねー? 今度はちゃんとベッドの上ですっかなぁ? 」
へらへらと笑って古谷は麻琴に背を向ける。そのまま裏口に向かって歩いていってしまった。
取り残された麻琴は、痛む身体を無理に起こして、汚れた身体のまま下着事ズボンを履いた。ドロリと古谷が吐き出したものが下着を濡らすけれど、そんなものはどうでもよかった。
学校はサボりたくはなかったけれど、こんな状態で授業を受けれる筈もなくて、麻琴も裏口へ向かって歩き出した。



酷く痛む身体を引き摺って、ボロボロのアパートへ戻ると制服を脱いで取り合えずシャワーを手早く浴びた。それから私服に着替えて財布だけを持って麻琴は再び家を出た。
義父は麻琴を好きなように扱うけれどきちんと仕事をしている人だ。夜まで帰ってこないけれど、母親はそろそろパートから昼を食べに帰ってくる時刻だ。だから、家には居られない。
行く宛もない麻琴は、カフェに入って目立たないように座り込んだ。ジュース一杯で、潰せるだけ時間を潰す。
何も考えたくない。
それが、麻琴の素直な心情だった。
人がまばらな店内は適度に音があって、ボーッとするには最適だ。これが静かすぎると余計なことをきっと考えてしまうと麻琴自身わかっていた。
タブレット型端末を操作しながら、何かをメモしているサラリーマン。客の去ったテーブル席を拭き、片付けをしに動き回る店員さん。そしてイヤホンをして本を読んでいるそこそこの若い男女。ちびちびとジュースを口に運びながら、ただ動くものを見つめて時間をやり過ごす。
カランと音が鳴って、現実に引き戻される。空になったグラスの中で氷が砕けた音だった。
時刻は夕方の3時を少しだか回っていて既に2時間以上居座っていることに気がつく。麻琴は仕方なく店を出ると、買い物に出掛ける主婦や学校の終わった小学生がバタバタと町を賑わせていた。そんな風景から自分だけが異質な気がして、麻琴は唇を噛んで下を向いた。
どうして、普通に生きられないのだろう?
どうして、僕は異端者扱いされるんだろう?
この取り柄のない平凡な自分が、何をして周りの人を苛つかせるのだろう?
いつから僕は同性が好きなんだろう?
どうして義父に足を開かなくてはならないのだろう?
どうして母は気付かないのだろう?
どうして、古谷くんにまで性処理に使われたんだろう?
何がいけないのだろう?
とぼとぼと無意識に歩いてたどり着いた先は人気のない公園で、唯一のベンチは浮浪者が寝そべっていた。
少し離れたブランコに仕方なく腰かけて、キィっと錆びた音を聴いた。傷付いた場所が座る度に痛みと熱を訴えてきたが、それすらどうでもよくなっていた。
明日は熱が出るかもしれない。それも、どうでも良いことだ。
「……っふ」
溢れたのは、知らずに笑っていた自分の声。
何が自分でもおかしいのか分からないけれど何故だか笑いが止まらない。
クククッと喉が勝手に鳴る。
その答えは等の昔に分かっている。自分が、よく知っている。弱いから、だからみんなの捌け口にされる。ただそれだけの事なのだ。
誰も彼も、自分を守ることに必死で、こんな自分のSOSなんて取るに足らないのだ。
だから誰も助けてなんてくれない。救いの手なんて、きっとこれからも差し出されることはないのだ。
知っている。
救われたがることは、滑稽なことだろうか?
「……ふふっ」
込み上げてくるこの感情は何だろうか、うまく言葉にできないけれど麻琴はただ暗くなるまでひたすら笑い続けた。








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