氷血(幸宏×智也)
体を揺さぶられながら、肩に鋭い痛みを感じた。
「あぁぁぁっ!」
嬌声とも悲鳴ともつかない声が溢れる。
流れ出る血を愛しそうに舐める彼のぺニスが、体内でぐっと大きくなったのが分かった。
「んっ……あっはぁっっ!! 」
剃刀がカランと乾いた音を立てて固いフローリングの床に落ちる。
それによって傷つけられた肩は赤く染まり、その色や馨りに彼が興奮するのが分かった。
大きくなったものをギリギリまで引き、また最奥へ突く動作を繰り返しながら、彼は流れる血で肌を赤く染めて行く。
耳に届くのは彼が出入りする卑猥な音と二人の荒い息づかい、そして、揺さぶられて出る悲鳴。
「んっ……あぁ……あっあっ……あっ」
激しいピストンに思考が朦朧としてくる。熱く痛む傷と、下半身に響く痺れを伴う快感に体が痙攣を繰り返す。
後ろから突き上げられる度に自身からパタパタと白濁がシーツに散った。
イキっぱなしで既に体は云うことをきかない。それでも意識を失わないのは、肩の痛みが意識を引き戻すからだ。
「やぁ……ふん……ん……あっ」
「とも、とも」と譫言のように自分の名前を繰り返す彼は、トリップしていてこの狂乱がいつ終わるのか、智也は飛びそうになる意識の中で考えていた。



ぐったりと指の一本すら動かせない智也は、血と精液で汚れたベッドに沈んでいた。
智也の肩を傷つけた幸宏は、傷を見るなり吃驚したのか慌てて手当をしてくれた。今は替えのシーツを取りにクローゼットを漁っている。
「とも」
名前を呼んで戻ってきた幸宏は大判のタオルで、横たわっている智也の体を包みそっとソファに運んだ。智也を抱えるその上半身と両腕は治りかけた傷が点々とその存在を主張している。
ソファに運ばれた智也は、寝かされたその振動でさえ響く体に眉間にシワを作った。
「ごめんね、体、辛いよね? 」
ふんわりと髪を鋤くその手を感じながら、智也は眼を閉じたまま否定する。
「ヘーキ。ユキの方が辛そうだもん」
「……ありがとう」
髪を鋤くてが離れるのと同時に、幸宏が離れたのが分かった。きっとシーツを新しいものに取り替えたり、ベッドを整えに行ったのだ。
幸宏は血液嗜好、俗にヘマトフィリアと呼ばれる病の持ち主だ。本人はきっちりと病院にも通い、治せなくとも治療を続けているのだけれど、その嗜好のせいで智也を傷つけてしまうのを酷く憂いている。体にある傷はそんな幸宏が血を求めた結果だ。智也はそんな幸宏を見るのが、実は少しだけ怖かった。血を求め、その代償に自らを深く傷つける。智也が自傷行為をやめて欲しいと頼むと、幸宏は苦しそうに泣きながら頷いてくれた。けれど、抑えられないのか度々幸宏は自傷行為を繰り返していた。だから、智也はお願いしたのだ。傷つけるのな俺にしろと。
「とも、本当ごめん」
しゅん、と項垂れる姿はセックスをする度に見られる幸宏の決まった姿だ。そうして疲弊した智也をきれいになったベッドへ運ぶ。腕に抱き抱えられたまま、にっこりと笑ってやると幸宏は複雑で、それでいて泣きそうな表情を作った。
「俺が言い出したことだし、問題ないよ」
優しくベッドへ寝かされ、少し腕に力を入れる。そして触れたのは幸宏の腕にある生々しく主張する切り傷。深いものから浅いものまで、沢山の傷。
「ユキは悪くない。俺はユキをその嗜好ごと受け止めるって誓ったから、大丈夫」
「うん、うん」
傷に触れていた智也の手を幸宏が包むように握った。



幸宏との時間は痛くて優しくて、そして愛しいものだった。そんな時間が崩れたのは幸宏の変化がもたらしたものだった。
鬱ぎ込むことの多くなった幸宏は、時折狂ったように血を求める。智也に出来ることは少なくて、傍に居るのに幸宏の力になってやれないことが酷く寂しかった。
智也を傷つけるのを嫌がる幸宏は、必然的に自身に刃を向け、その傷の多さは驚くほどで、傷つける度に傷は深く出血量が増えていく。顔色もどんどん悪くなって、フラつく程だった。
満たされない何かを埋めるように、血を求めて自分を傷つけ続ける幸宏。
「ねぇユキ、もう止めて死んじゃうよ」
何度そういって止めてもも「うんそうだよね」と、返事をするだけで智也の言葉は本当の意味で届かなかった。
ユキの過去に何があって、こんなにも血を求めるのか智也は知らない。だから、何も出来ない。いや、知っていても何も出来ないかもしれないけれど。
「とも、ともともとも!!」
幼子のように名を呼ぶ幸宏はとても痛々しくて、智也はぎゅっと抱き締める。少しでも彼が安心出来るように。少しでも彼が落ち着けるように。
連絡が来たのは、大学が終わって家に帰る路のことだった。
見慣れない番号に不安を覚えながら電話に出た智也は、相手の言葉に自分の機能の全てが停止したような感じがした。



幸宏が、死んだ。
大量の血を失ったからなのだそうだ。
知らぬ間に追い詰めていたのだろうか?
どうしてやれば良かったのだろう。
誰も答えをくれない。
独りで死んでいくなんて。
そんな幸宏を思うと哀しくて寂しくて、智也の全てが悲鳴をあげた。
追いかけても、良いだろうか。
赦して、くれるだろうか。
幸宏の愛した赤に、智也は静かに眼を閉じた。




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