夕陰草
ぬばたまの夜07
誘われるままに飲んで帰ったあの日。重い足を引き摺るようにしながら家に着いたのは夜中の1時を回っていた。玄関には洋兵の靴と見覚えのない男物の靴が並んでいて、要を更に暗い気持ちにさせた。
多分、男を連れ込んでいるのだろう。時間的に既に眠っているようだがシャワーを浴びると起こしてしまう可能性があった。
要はため息をついて、明日そのまま会社に行けるようにスーツを着込んで、また音を立てないように家を出た。
その日は結局ネットカフェで仮眠を取りそのまま仕事に出掛けたのだ。

何の為に洋兵の傍に居るのか分からなくなって、洋兵への自分の気持ちもわからなくて、ただ逃げるように毎日をやり過ごす。
会社近くの落ち着くコーヒーショップはあれらちょくちょく通うようになった。朝一の時もあれば、大貫が言っていたように夜の19時を回ってから、話をするために行くこともあった。
何のしがらみもなく話す数十分は、要の心を少しだけ軽くしてくれる。話すのは他愛の無いことばかりだったけれど、今の要にはそれで充分だった。

大貫が同い年なのも知った。可愛い彼女が居ることも知った。大学を出て、暫くは一般企業に勤めながら、其れまでに貯めていたお金と合わせて、漸くこの店をやりはじめたことも。それから、実は接客が苦手だとかーー絶対嘘だと思ったけどーー。まだ手探り経営中だとか、沢山話したのだ。
大貫に比べて話せることの少ない要は、ただ話を聞いた。

あれから、洋兵は男を時々連れ込むものの、要に暴力を振るわなくなった。ただの気まぐれかもしれないし、要自身に興味がなくなったのかもしれない。

やっぱりもう、駄目なんだな。
分かってはいたのに、無償に泣きたくなるのは何故だろう。
好きか嫌いかと聞かれれば、もう好きだとはっきり答えることも出来ないのに。
何がこんなに虚しくさせるのだろう。

要の心は空っぽだった。

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