夕陰草
ぬばたまの夜06
途中参加した飲み会は同期会と言えるようなものだった。高宮をはじめ部署の違う野村や、辞めてしまったメンバーまで。男から女まで、総勢6人程。席に案内して貰い、顔を出した瞬間同期の女の子から取り囲まれるように引っ張られてしまった。

「やーん! 本当久し振りだねー! 」
「本当だよー! よく呼んだ! 高宮くん! 」
「黒見くん全然こういう飲み会来てくんないんだもんー! 」

口々に一気に捲し立てられ、要はどうしていいか分からず「ごめんね」と、曖昧に微笑み返す。

「ほらその男にも女にもない綺麗なとことか、本当奇蹟的だよー! 」

キャーっと、言わんばかりのテンションに助けを求めるように高宮に視線を投げるが、野村と盛り上がっているのか全然気付いてくれない。

ーーいやいや、呼んだの高宮でしょ?ーーとは思うがそれも口には出来なかった。

回りを女の子に囲まれて何を注文するとか甲斐甲斐しく世話を焼かれお礼に微笑み返す。

「もう! マジ黒見くんって王子ーって感じ! 」
「彼女いないなら立候補したい! 」
「こんな格好いいのに居ないわけないじゃんねー!? 」
「やー!でも彼女より細い彼ってどーなの!? 」
「それは黒見くんに頑張ってもらうしかないよ! 」

女3人寄ればーーとはよく言ったものだと思いながら、答えようとする要の言葉を引き取ったのは、野村と盛り上がっていた高宮だ。

「其らしい影はあるよなー」

高宮の言葉に女の子は騒然とし、真偽を確かめようと身を個々に乗り出してくる。

「あー、うん。居るには居るんだけど」
「なになに!? 」
「最近は、あんまり、その、上手くいってなくて……」
「そーなのー!? 」

胸にチクリとした痛みが走る。
居るのは彼女じゃなくて彼氏だし、上手くいってないって言うか既に色々崩壊してしまっているし。
要は女の子が頼んでくれたモスコミュールに口をつけて、広がる痛みを呑み込もうとする。

「だったら別れたらいいのにー!」

そうかな? と適当に相槌をうちへらりと誤魔化す。

どうして来てしまったのだろう?いや、此処しか逃げ場所がなかったから来たんだけど。まさかこんな大勢人が居るとは思わなかったし。

適当に会話を誤魔化すうちに、気が付いたら要の隣には高宮が座っていて、酔いが回っているのかひたすらニコニコとしていた。あまりにもずっと顔を見てくるので「どうした? 」と聞いてみると、高宮は突然ポンポンと要の頭を撫でてくる。ビックリして固まっていると、また陽気な声が発せられた。

「あー! 黒見可愛いわー! 」

デレッと言う表現が似つかわしい表情に顔を崩し、高宮はさらにわさわさと頭を掻き乱すように撫でてくる。

「ちょっ! 高宮! 」
「俺黒見ならイケそーな気がする! 」
「そう言う冗談は止めろって! 」

要の抵抗は何処吹く風で気にも止めてもらえないうえ、回りの女の子は意味不明な悲鳴と、同期の男連中からは「女の子を独り占めしてた罰だ」とか何とか囃し立てられ、要は慌てるしかなかった。
マイノリティな自分にとってその手の冗談は時に冗談ではなくなる。 侮蔑の目で見られるからだ。幸い今は酒の席で、誰も本気には捉えていないが。

それからどれ位飲んだのか分からなかったけれど、全く酔えなかった要は、陽気に帰っていく同僚たちを見送り、徒歩で帰ることにした。

日付の変わる時刻、人の流れはチラホラと殆どなく、タクシーやトラックがスピードを上げて通り過ぎていく。酔えなかった代わりに、身体の感覚は少しだけ緩く、昼間のような怠さは感じなかった。

楽しいと、確かに感じた。皆と居るのはどんな形であれ、気が紛れる場所なのだ。でも、その反動は大きい。帰る足は鉛のように重く感じる。帰れば、洋兵が居る。その事実が要の足を重くしていた。



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