夕陰草
結びとどめ04
執拗に舌を吸われ、酸素不足で要の力が抜けた頃、ようやく大貫は要の唇を離した。
互いの唇が唾液で濡れ光っている様が卑猥だった。

「俺から離れるって言うの? 要、そんなの赦さないよ」
「…………」

顔を火照らせ、肩で息をしている要は言葉もでない。今更だけど大貫から離れると言うつもりだったからだ。
ぐっと、要の腰を引き寄せた大貫は、由深に向き合うと宣言するように言葉を投げた。

「ねぇ、由深。見ての通りだよ。要が俺から離れないんじゃなくて、俺が要を離さないの。分かる? 俺とまだ付き合いたいなら要のことは譲れないよ? 」
「……分かった。」
「そう? どうするの? 」

由深は黙ったまま要と大貫の二人を射抜くようにしばらく見つめると、ポツリと言葉を落とした。

「……さよなら」

消え入りそうな声は、スッと夜に溶け込んで由深は踵を返して来た道を戻っていく。俯いて歩くのは、泣いているのかもしれないと要は思った。
その由深の後ろを要は追おうとすると、大貫がまた要の手を取った。

「要」
「うん、でも夜遅いし危ないから」

要の言葉に大貫は仕方ないと言う風に息を吐くと、要の手を取り由深の後ろを付いて歩き出した。
護衛のようについて歩き、暫くして駅に着くと、由深は振り向きもせず「送ってくれてドーモ」と改札を抜け走って行ってしまった。

由深を見送ったあと、要は買い物袋を下げた大貫に問い掛けた。

「……あれ、本気だった? 」
「あれ? 」
「……あの、子供云々の話……」
「勿論本気。要の子供欲しいよ。きっと可愛いと思うんだ」

大貫はそう言うと、要の手を引きながら、自然にマンションへ向かった。

「由深ちゃんと、寝かせるつもりだったってこと? 」
「えー、そんなことしなくても子供は出来るでしょ? 」
「……えっと? 」
「要の精子提供して人工受精させればいい。要が他の誰かを抱くなんて絶対だめ。キミは俺に抱かれてなさい」
「…………」

大貫の言葉が嬉しいのか何なのか、要はよくわからなかったけれど顔を真っ赤にして俯いた。
気がつけばマンションのエントランスで、そのままエレベーターに乗り込み迷わず上がっていく。

「ど、どうしてあの公園にいたの? 」
「ん? あー、あの近くにパンを仕入れてる店があってさ。新作のパン出来たからって呼ばれたんだ。その帰り」

大貫は提げていたビニール袋を要に見えるように少しだけあげる。エレベーターが止まって降りるとガサガサと言う音が歩く二人の速度と重なった。大貫が部屋の鍵を開けて中に入ると、要も大貫に促されて部屋に入った。

「……お、お邪魔します」

要のようすに大貫はクスクスと笑いながら「どーぞ」とリビングに抜けていった。



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