夕陰草
結びとどめ02
由深の言葉に要は返す言葉もなく、震える由深のちいさな肩を見ていた。
要は選ばれたのだろうか?
確かに好きだとは言われた。身体も繋げたしデートもした。けれど、付き合ってくれとは一言もないのだ。現に、こうして由深が要に詰め寄るのは、大貫がどちらも選んでいないからではないのか。

「……あの、でも俺、大貫とは付き合ってないよ……」
「うそ! 信じられない! 私見たんだから! 」
「……見た? 」
「先週、昭斗が店を臨時休業にしたのは、貴方と会ってたからでしょ?! 」
「…………」
「なんとか言いなさいよ!! 」
「そう……だね。会ってた。けど、付き合ってなんかないよ? 本当に……」

情けないけれど、要にはこれしか言いようがない。大貫への気持ちは本当だ。由深から奪ってまでとか大それたことは考えてはいなかったのに、結果はそれに等しい行動を要はしてしまっていた。

「あの、ごめんなさい。男が好きだとか、気持ち悪いと思われても仕方ないんだけど、俺は……大貫が好きだよ。その、キミから奪おうとは考えてもなかった。なのに、俺の行動は浅はかだったと思うから。……ごめんなさい」

要が頭を下げると、由深は一歩を踏み出し、要の頬をまた強く打った。乾いた音が鼓膜を揺らす。二度、三度と頬を打たれ、四度目の平手を由深が打とうとしたときだった。

「それぐらいにしろよ。何やってんの? 由深」

声の方に顔を向けたのは、由深も要も同時だった。そこには買い物袋を下げた大貫が立っていた。

「昭斗……何って! 貴方が私じゃなくてこんな男を選ぼうとするから! 」
「だから何? 可哀想に。頬腫れてるんじゃない? 」

まるで由深を無視するように要に近づき、熱をもってしまった頬に大貫が優しく触れる。
そして掠めていくだけのキスを、その頬に落とした。
それに慌てたのは要だ。

「大貫! 」
「名前で呼べって言ったよ? 要」
「今はそんなことよりっ! 」

要の言葉に大貫はわかっていると言うように、要の頭を優しく撫でると、由深に向かって冷たい言葉を吐き掛ける。

「由深がそんなだからさ、俺冷めちゃったんだと思うんだ。人を傷つけても平気な人だとは思わなかったよ。残念だ。要は、彼は俺にとってかなり大事な人になったから、そうやって傷つけられると、相手が由深だろうと他の女だろうと容赦しないよ? 」
「…………」

黙り込んでしまった由深は悔しそうに顔を歪めながら要をにらんだ。その姿は好きな人を取られたと言うよりは、男に負けたという女としてのプライドが傷付いたと言っているようだった。

「……付き合ってないって言ったじゃない!! こんなオトコじゃなくてもいいよね!! 私だったら昭斗の子供だって産んであげられる!! 」

由深の言葉は要に深く突き刺さった。たしかに要では子孫は残してやれないから。しかし、大貫は信じられない言葉を吐いた。要も、由深さえも狼狽えるような……。

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