夕陰草
結びとどめ01
ポストカードを買ってくれると言った大貫は、結局要が1つに絞りきれないのを見越して、写真集を買ってくれた。さすがに悪くて受けとるのを渋っていた要に「もう買ったんだから受け取って」と、強引に受け取らされた。
それから明確な目的もない二人は、結局街をぶらつき、大貫がどうしても入りたいと言ったゲームセンターで、いい歳した大人の男二人がプリクラを撮る羽目になり、かなり恥ずかしくて、要は笑顔がひきつったのは言うまでもない。しかも大貫はそれを携帯にデータをいれて、待受にしたものだから、嫌がる要と言い合いになった。結局折れたのは要の方だけれど。
街中で男女の恋人のようには振る舞えなくても、二人でデートと称して出掛けることができて、純粋に嬉しくて楽しい。だから、少し浮かれていたのかもしれない。

それは大貫とのデートから一週間目のことだった。

「黒見要! 」

仕事が終わって、少し遅めの時間帯。
要は呼び止められたその声にギクリと体を強張らせた。
人通りも少ないビジネス街で、由深は要を待っていたらしかった。コートを着るには早すぎる季節だけれど、夜はそれなりに冷えるにも拘わらず、彼女は薄着だ。
要が声を出そうとした瞬間に、由深は右手を振りかざして要の頬を勢いよく打った。
パシッと乾いた音がして、要の頬に熱が走り痛みを誘う。

「泥棒!! 」

絶叫のような彼女の声は悲痛で、その声に驚いた周りの人の視線が集中する。

「私に昭斗を返してよ! 何でオトコのあんたなの?! 」

由深の言葉に周りの視線が更に突き刺さるような気がした。
要はさすがにここでは不味いと判断して、由深を置き去りに歩きだす。多分、由深も付いてくると確信してのことだ。
案の定、歩き出した要に由深は「待て」とか何事かを叫びながら少し早い要の歩調に小走りで追ってきた。
要は付いてきているのを確認して、ぐんぐんと人気のない方へ歩みを進める。
それから10分は歩いただろうか。小さな公園にたどり着いた。

「こんなところまで来てどういうつもり!? 」
「あ、うん。彼処、目立つから……」

振り返りながら、要は由深に向き合って答えた。そんな要に由深はまた眉をつり上げて反論にかかる。

「目立つと何か問題あるわけ!? そんな気が回るなんて余裕ね! 」
「そんなことないよ。不快にさせてごめんね」
「なにそれ」
「うん。あ、大貫のことも。連絡とらないって言ったのに約束破るようなことして、ごめん」
「……バカにしてンの? 」
「そんなことしないよ……」

由深に小さく反論するけれど、強く出られないのは要自身後ろめたさが残るからだ。元々マイノリティな要とは違い、大貫は本来ノーマルな女好きだと見ている。それなのに大貫は彼女の由深ではなく、男の要を選ぼうとしている。
要にとっては望むべき状態だが、由深にとって歓迎で来ないのは当然だ。

「どうして平気で人のオトコを寝取れるの?! どうして女の私じゃなく男のアナタなの?! 」

由深の声は悲痛に響いた。

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