夕陰草
明けぐれの空18
「デートしよう」そう言われて要と大貫は一緒にベッドに入り眠った。大貫は要を腕に閉じ込めたまま離そうとせず、後ろから抱き締められた格好で結局要はドキドキして眠ることが出来なかった。
心音が伝わるかも知れないと言う緊張もあって、身体はガチガチに固まってしまって、ようやく眠りについたのは完全に陽が上ってからだ。

「要くん、起きて」

ゆらゆらと優しく揺すぶられ、要はうっすらと目蓋をあげた。浅い眠りのためにすぐに覚醒する。
まず視界に入ったのは要自身のくるまるシーツ。それから逞しい腕。その腕の先には大貫が上半身裸の状態で要を見下ろしていた。

「……おは、よう? 」
「もう昼前だけどね、おはよう」

眩しく感じるほどの笑顔が間近にあると言うのはなんとも落ち着かない気分にさせる。大貫の顔を直視出来なくて視線を泳がせた。

「そういう顔、止めてくれる?また犯したくなる」

ベッドのスプリングを軋ませて大貫は要に顔を近づけると、ニヤリと先程とは違う笑顔を作る。
そんな大貫に要は顔を真っ赤にさせて飛び起きた。ドキドキと早鐘を打つ鼓動が煩くて胸が苦しくなる。

「……え、なんか違う人みたい」
「俺はいつもこんなだよ? まぁショップに居るときは外面よく見せるけど。幻滅した? こんな俺は嫌い? 」
「……そんな質問……ズルい……」

要は途端に項垂れて顔を隠すように下を向いた。

「そうだね、ごめんね。でも……」

そこで言葉を切った大貫は、またもベッドを軋ませて要覆い被さると、裸の要の上体に顔を埋め、その胸の蕾をペロリと舐めあげた。

「大貫っ!」

吃驚した要は身体を捻って逃げようとするが覆い被さられているために上手くいかない。

「最初に言ったよ、俺は優しくないって」

ニヤリと笑いながら上目遣いで大貫に見つめられる要は、補食された草食動物の気分だ。胸元で「あー犯したい」と物騒な声が聞こえて要は身を固くする。そんな要の様子に大貫が笑いながら要を解放し、上体を起こした。

「まぁでもデート出来なくなるから今はしないよ。早く風呂はいって服着なよ。裸のままだとまた襲うよ? 」

要は一瞬で顔を真っ赤にして絶句してしまう。何だか最初の印象と全然違うのにそれでもドキドキしている自分がいる。『何が』とは具体的に言えなくても、やっぱり好きなんだなぁと感じた。

「あ、それと昭斗って呼びなさい。これ、命令ね」

大貫はそういうとキッチンの方へ消えていった。
ーー昭斗? え? 下の名前で呼ぶの?
要は戸惑いながら、取り敢えず全裸の身体を隠す為に、トレーニングパンツだけを履いてキッチンを横切りバスルームに入った。そんな様子をキッチンから見ていた大貫が、ヤラシイ目で見ていたことを要は知らなかった。

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あきゅろす。
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