夕陰草
明けぐれの空09
珍しくギリギリに出社した要は、特に急ぎの仕事もなくそれでもデスクパソコンにかじり付くようにデザインに集中した。そうでもしなければ余計なことに気を取られて何も手が着かないと判断したからだ。
集中していると時間が経つのも早い。気が付けばお昼も遠に過ぎ、陽が傾き西に赤く沈もうとしている。
要は腕をグッとあげて肩回りの筋肉を解すと、休憩のために立ち上がった。
会社を出て直ぐ近くのコンビニへ入ると、サンドイッチを適当に掴んで、大貫の店に行きだしてから飲むようになった微糖のカフェオレと一緒にレジを済ませる。そしてまた直ぐに会社に戻っり、休憩ブースの簡易机に今買ったサンドイッチを開けてぱくりと一口。もぐもぐと咀嚼していく。

ーーあんまり、味しない。

食べないといけないから食べる。そんな感覚でサンドイッチを口に運び続ける。何処か大手の珈琲メーカーがコラボしたカフェオレのストローを挿して、ズズっと啜る。啜るとやっぱり大貫の作るものとは全然違うことに気づかされる。大貫の作るカフェオレはもっと口当たりが良くて、後味ももっとスッキリと香り高くて、それがミルクが入ることでまろやかで優しい味になるのだ。
そんなことを思いながら、美味しくもないカフェオレ
もう一口啜る。そしてまたサンドイッチを一口。
赤い夕陽が完全に沈んだ頃、要は漸く休憩ブースから出た。
そんな要をいつものように高宮が呼んだ。

「黒見! 」
「高宮。お疲れ様」

ニッコリ笑えば、高宮は妙な顔をする。

「……? 」

高宮は「はぁぁぁ」と大袈裟なくらい大きな溜め息を吐くと要の髪をかき混ぜるようにワシャワシャと撫でた。

「え? なに? 」
「顔死んでるし」
「そう? 」
「今度は何? 」
「…………」

高宮の「今度は何?」という台詞に、要は何時もそんなに落ち込んでいるのだろうか?と妙な疑問を持つ。確かに、高宮にはろくな姿は見せていないが。

「昨日会ったあの子が原因なんだろ? なんか言われたのか? 」
「あー言われたような、そうでないような……?」
「……ろくでもない事言われたんだな」
「そんなことないよ 」
「嘘つくなよ、見てればわかるし」

呆れられたんだと感じて、勝手に体が震えた。
洋兵に散々言われ続け、自分を否定されることには慣れたつもりで居ても、無意識に怯えているのかもしれない。由深の一言に吐いてしまう程に精神は疲弊しきっていた。

「…………」

口を開けば何かが溢れてしまいそうで、口を噤む。
どうして自分はこうなんだ?気丈に振る舞うことも出来ないなんて。高宮にも大貫にも、そして由深にさえも迷惑ばかり掛けて、全然役に立たない。
そして、こんな考え方しか出来ない自分自身がもっと嫌いでいっそのこと消えてしまいたいと、要は強く思う。

「……黒見? 」

高宮の呼ぶ声に、要はやはり答えられなくて首を降って立ち去るために足を動かした。が、高宮に腕を取られて、逆に引き摺られるような形で休憩ブースフロアの一番奥にあるトイレに連れ込まれた。

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あきゅろす。
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