夕陰草
明けぐれの空06
「お疲れー」
「お疲れ様」

会社の前で落ち合った要と高宮は直ぐ近くにある焼き鳥屋へと向かって歩き出した。
夜も老け込んでくると昼間との気温差で身体がブルリと震えた。細身の要は寒いのが苦手だったりする。

「冷えるなぁ」
「お前、見た目通り寒いの苦手なのな」

喉奥でクツクツと高宮が要を笑った。

「ほっとけっ! 」

なんだか、最近は揶揄われてばかりだなぁと要は思うけれど、何だかそれも悪くないような気がして一緒に笑う。妙に距離を置かれたら流石に辛いから。
まだそんなに遅いという訳ではない時間。それでも男性は次の店、女性は帰路とそれなりに別れている。そんな中、目の前に見たことのある女性が立っているのに気がついた。
大貫の彼女、由深だ。彼女も同僚か友達か、飲み会の帰りらしく、女の子同士でお喋りをしていた。
要はなんだか気まずくて、視線を逸らそうとしたけれど間に合わなくて、バッチリと目があってしまった。

「……あ」
「ん? 」

要の小さな声に高宮が反応した。どうしたんだと言わんばかりに要の視線を辿っている。

「何、あの可愛い子。知り合い? 」
「……前、言った友達の彼女」

「ふーん」と高宮は彼女を見ていたが、由深は連れていた女性に何事か告げて別れると、要目掛けて歩いてくる。
良い予感は、ひとつもしない。それを証明するように、近付いてくる彼女の瞳は鋭い敵意に満ちている。

「……こっち来るけど、何か目が怖い」

高宮が由深の迫力に戦いている。要もそうだねと返しながら気持ちは既に逃げている。
どんどん近付いてくる由深はあっという間に要の前にたった。

「こんばんは」
「こ…んばんは」

冷ややかな声に、要はまともに目さえ合わせられない。隣で居心地悪そうに見守っている高宮を由深はチラリと見上げ、要に向かって冷笑した。

「こんなところで会うなんてスゴい偶然ですね。そちらの方はお友達? 」
「同僚の高宮です」

こんな時でも高宮はスマートに出来るのが凄いと思う。要は無駄に狼狽えまくっているのに。

「黒見さん、少し時間とれます? 」
「……」

由深は要に聞きながら、視線を高宮に送った。まるで自分から立ち去れと促しているように見える。

「あー…と、俺は居ない方がいいのかな? 」

高宮はあくまで要に確認する。要は心許ない目で高宮を見てしまう。が、これはどう考えても高宮には関係のないことで、巻き込むのは違うと分かっている。

「ごめん、また今度飲みに行こう」
「わかった。じゃお先」

高宮は心配そうに手をあげて帰っていった。


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