夕陰草
明けぐれの空05
どうしたって考えてしまう。
何度も電話やメールをして、店にも行って、他愛のない会話をして大貫の顔だけみて帰る。それの繰り返し。
映画の後も何度かあった。一緒にいたら楽しくて嬉しくて、でも苦しい。時々入る彼女からの連絡。
大貫は要を気遣って、いつも少し離れた場所でやり取りをしている。遠くからでも大貫が困っているのが分かるのだけれど、大貫を困らせるそもそもの原因は、要自身が作っているようなものだ。
彼女の由深は、あれら直接のやり取りもなければ会ってもいないけれど、こうして大貫が要と会っているのは肌で感じているようで、いつも絶妙なタイミングで連絡が入る。
この間もそうだった。休日出勤した代休に要は平日に休みを取っていたのだけれど、その休みの日に偶然買いもの先で大貫に出くわした。二人で「偶然だな」なんて言いながらそのまま一緒に行動を供にした。
予定にないデートのようで要は浮かれていたし、大貫も油断はしてたんだと思う。
突然入った連絡に、大貫は少し慌てた様子だった。
どうやら由深は予告なく大貫の部屋に行ったようで、いつもなら戻っている時間に居ないから不信に思ったらしい。
大貫は要にそういうことは言わないが、何となく理解出来ることだった。
大貫は変わらずに近いスキンシップを取ってくる。かと言ってはっきりと言葉にもしない。彼女と別れる気配もない。要にとっては苦しい状況が続いているのは事実だ。距離を保たなければいけないと分かっているのに、意思が弱いのか、大貫から連絡が入ると時間を作ろうとしている自分が居る。
要は自分自身に呆れていた。



考えに耽っていると後ろら後頭部をバコっとなぐられた。

「いたっ」

頭を擦りながら、振り替えれば呆れた顔の高宮がそこにいた。

「いきなり何だよ」
「いや、惚け過ぎててムカついた」
「なんだよ、それ」
「そのまんま。つか、今仕事中。会議の間も心此処に非ずだし、まぁ重要会議でもないから問題はないけど」
「……そんなに顔に出てた? 」
「おう、酷かった」

要は顔を手のひらで擦ってみる。そんなことしたって何が変わるわけではないのだけれど。
そんな要に高宮はまたバコっと音を立てて書類で殴った。

「痛いってば! 」
「うるせっ行くぞ。鍵閉めるってよ」

高宮が顎で示した方を向くと、女子社員が鍵をもって全員が出ていくのを待っていた。要は椅子から立ち上がると高宮の後に続いて会議室を後にした。
夜の会議は時間があってないようなもので、そのまま残った仕事を片付ける者や、帰る準備をしてさっさと来たくする者。折角だからと同僚と飲みに出掛ける者。色々だ。
案の定、要も高宮から1杯行くかと誘われて、会社前で落ち合うことにした。

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