夕陰草
明けぐれの空04
優しく撫でられる繋がれた手。
緊張で、心臓が痛くなる。
大貫はズルいと思う。距離が近くなればなるほど、要は欲の出る自分が嫌になる。多くは望まないと思ったばかりなのに、こんなに距離が近いとその手を取りたくなる。でも、それは出来ない。大貫には由深という歴とした彼女が居るのだから。
泣きたくなるほど切ないのに、同時におなじだけ嬉しいなんてどうかしてるなと、要は俯いた。

「要くん」

呼ぶ声に顔を大貫に向けると、ふんわりと大貫の甘い香りが要の鼻腔を擽る。

「今日はありがと。おやすみ」

大貫は要の頬に軽くキスを落として、固まって顔を真っ赤に染める要に抱き付いた。

「要くん可愛すぎでしょ? 」

ふふっと笑う大貫にからかいの色を感じて、要は大貫を押し退けた。

「もう! からかうなよ! 」
「ごめんごめん。でも可愛いって思うのはホントなんだけど」
「もういいから! 早く帰れ! 」

真っ赤になって叫んでも迫力もないし、要の態度はどう考えても嫌がっている風には見えない。
やはり大貫は笑うだけ笑ってヒラヒラと手を降ってマンションの方に消えていった。

大貫の背中が見えなくなって、要は無意識に身体に入っていた力をぐったりと抜いた。
心臓に悪い。
身体に悪い。
大貫は要をからかって遊んでいるだけなのか。まさか帰国子女でもあるまい。挨拶……いや、挨拶と言われればその程度の触れ合いだけれど。

「……帰ろ」

要は時計を確認して券売機で切符を買い、人のまばらな寂しい駅構内に入っていった。







なんとか最終の電車に間に合い、日付が変わって暫く経ってから家についた要は無造作に着ていた服を脱いで洗濯機に放り込んだ。給湯器の電源を入れて、熱い湯に頭から打たれる。
軽い頬へのキスと包容は、自分を受け入れてくれる合図のような気がして、要はそんな思いを打ち消すように頭を降る。そんなわけない。大貫には彼女が居るし、多分きっと気まぐれを起こしたんだと、自分に言い聞かせる。そうでもしないと、無闇に期待してしまうから。
近づきすぎてはいけない。でも離れることも出来ない。それで良い。それでいい。
要は日を追う毎に大きくなる気持ちに戸惑っていた。

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