夕陰草
明けぐれの空03
映画は高校生の少女が突然家族を亡くし、悲しみを乗り越えて生きることを諦めないというヒューマンドラマ。グッと来るシーンもあったりして、潤んでいることを知られないように映画を見ていた要は、鑑賞中に大貫から手を重ねられて映画どころではなくなってしまった。
どきどきとして、手から心音が伝わるんじゃないかとそればかりかが気になって妙に汗ばんでいた。
暗闇のなか大貫に視線を送ると、きゅっと重なった手が握られた。
要は狼狽して思わず振りほどくような仕草をしてしまうが、大貫は構わず更に握る手に力を込めくる。
そんなことがあって、結局殆ど上の空で、内容が頭に頭に入って来ないうちに映画は終わってしまった。

「結構良い話だったね」
「え? あ、うん」

要は途中から全然集中出来なくて、ラストどころか内容もあやふやだ。だからどう答えて良いか言葉を濁すと、それを不思議に思った大貫が首をかしげた。

「? 面白くなかった? 」
「あの、途中それどころじゃなくなったというか……」

要の言葉に、大貫はニヤリとして「嫌だった? 」と投げ掛けてくる。咄嗟にぶんぶんと首を降って否定するが、これでは自分の性癖を暴露してるようなものだろうか?いや、既に気付いているのかもしれないが、自分から言ったことはないし大貫も普通に接してくれている筈だ。同性の手を握る、という行為が果たして普通なのかは別にして。要は言葉もなく少しだけ落ち込んだ。

「何か、ごめんね? 」

ふいに大貫に謝られて要は「え? 」と顔をあげた。困ったように微笑む大貫は要の頭を撫でた。

「俺、要くんのこと困らせてる」
「そんなんじゃないよ。俺こそ気ぃ使わせてごめん」

人の波に逆らわず駅へと歩きながら、大貫はため息をついた。

「どーしたの? 」
「俺こんな仕事してるから、なかなか要くんと都合合わせられないなぁとか思って。明日仕事じゃなかったら絶対この後飲みに行くんだけど」
「サービス業は休みがあって無いようなものだからね。俺はそんな仕事してる大貫が凄いと思うよ。俺絶対無理だ」

要の言葉に大貫が笑う。

「要くんなら大丈夫だろ? 」
「根拠のない台詞は説得力ない」

はははっ声をあげて二人でと笑った。
不思議に駅に近づくごとに人が少なくなっていくのは、まだ遊ぶ人達が多いからだろうか。

「……手、繋いでいい? 」

大貫が何を言い出したのかと思って要が言葉を発する前に、暖かくて優しい手に手を取られた。

「え? え? え? 」

要は軽くパニックに落ちる。
どういうつもりなのだろうか?男同士で手を繋ぐとか、明らかに常軌を逸している。それにまばらとはいえ人も居る屋外。視線は気にならないのだろうか?というか、大貫にとって友達ってこんなに距離が近いものなのだろうか?
早鐘を打つ心臓と、いくつもの疑問が同時に浮かび落ち着かない。

「もう少しだけ、ね? 」

大貫はそういって要に微笑んだ。

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