夕陰草
明けぐれの空02
『映画いつ行く? 』
『休みが合わないからね。レイトショーでもいい? 』
『もちろん、俺は要くんに合わせるよ』
『ありがとう、なら土曜日は? 』
『わかった。待ち合わせは映画の時間みてまた決めよう』

そんなやり取りをして数日。
仕事終わり、要と大貫は待ち合わせをしていた。
要の仕事は19時には終了したけれど、大貫の店は20時迄だからその間、一旦家に帰って食事を済ませた。時間的に考えて大貫はご飯を食べる余裕がない。だから要は大貫のためにおにぎりを作っていくことにした。持ち込み禁止だけれど、ゴミさえ持ち帰ればわからない。
ーー喜んでくれると良いな。
要は具材に鮭とおかかを選んで、手を使わなくても食べられるようにラップでくるんでおく。それと、一応ウェットティッシュも持っていく。
そうこうしてる間に待ち合わせ時間に迫っていて、要は慌てて家を出た。
電車に乗り繁華街まで出てくると、さすがに土曜日なだけあって街行く人はまだまだ遊び場を探しながら続々と移動していく。スゴい人だなぁと要はそれを眺めて大貫を待っていた。

「要くん! 」

名を呼ばれた方に顔を向けてみると、大貫が小走りで要の元へやって来ていた。

「お疲れ。やっぱり大貫の休みに合わせれば良かったね」
「どうして? 」
「店閉めて残務処理もあるだろうし時間キツかっただろ? 」
「そんなの気にしなくていーよ。元は俺が誘ったんだし」
「ありがと」
「それより時間間に合わなくなる。行こ」

チケットは大貫が事前に購入済だから、引き換えてチケットを受け取るだけ。
映画館に入ったのは開演10分前だった。

「ギリギリだったね」
「間に合ってよかったー」

座席を見つけて座り、ほっとする要に大貫は優しく微笑んだ。

「あー、お腹空いた。要くんご飯食べた? 」
「うん。食べてきた」

大貫に応えながら、要は鞄から「はい」とおにぎりの包みを渡す。吃驚して大貫が目を丸くした。

「……これは? 」
「おにぎり。食べる時間ないだろうと思って作ってきた。」
「……まじ?! 」
「えー……っと、やっぱ館内で食べるのはまずい……よね ?」
「や、バレなきゃ良いよ。俺感動……ありがと」

大貫はにこにこと本当に嬉しそうに要の作ったおにぎりの包みを開けて、美味しそうに食べていく。すると上映の開始合図と注意事項が流れて、灯りが落とされていった。大画面と大ボリュームでCMが流れて行く。その間に話しかける。

「ごみはこっちに貰うね」
「ん」

もぐもぐとおにぎりを頬張り、コクンと頷く大貫が可愛く見えて、その姿に要の心が暖かくなる。お茶をゴクンと飲み、大貫は「ありがと」と要に空になったおにぎりの包みを返した。
ゴミを丸めて小さくし鞄に直す。ちらりと大貫を見ると、大貫も要を見ていて二人で可笑しくなってふふふっと笑いあった。
その内本編が始まり、二人は映画に集中することにした。


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