夕陰草
ぬばたまの夜01
ガンっと、リビングに押し倒された弾みに後頭部を強かに打ち、頭がクラリとした。
黒見要は同居する恋人、長野洋兵から手荒く扱われ弱く抵抗すが、体格のそう大きくはない要に対して洋兵は上背もあり筋肉質で力では叶わなかった。思うように動かない身体を力任せに暴かれる。

「っ!……やだっイタッ!」

慣らされもしていない後孔に無理矢理洋兵のモノを捩じ込まれ、要は呻き声をあげた。

「うぁ…っあ…あぁぁ…っ!」
「うるせー!黙ってヤらせろ!」

力任せに要の内側を抉り、堪えるために捕まるものを探したけれどフローリングには何も落ちていない。要はフローリングに爪を立てた。
力任せに犯され殴られ、もうどこが痛いのか要には分からない。快感とは程遠い痛みに、然もすれば意識を飛ばしそうになるが、洋兵はそれを許す筈もなく要の頬を打つ。

「意識飛ばすなよっ!」

むしり取られるのではないかと思う程の強さで髪を鷲掴みにされ、要の意識が戻ったのを確認するとまた、放るように頭をフローリングに打ち付けられる。
要は洋兵に暴力を振るわれる度、洋兵が中で凶暴に動く度、くぐもった声を上げることしか出来なかった。





シュッと衣擦れの音がする。瞼を閉じてまんじりともせず朝を迎えた要は、鈍く痛む頭を傾けうっすらと瞳を開けた。
衣擦れの先に居るのは当然、洋兵だ。営業マンらしく短く刈られた髪は爽やかで、少し垂れ目な感じが優しげな雰囲気を出している。要と違って筋肉質な体躯は引き締まっていて同じ男ながら羨ましく感じることもあった。が、今はその体格差が怖い。ネクタイを慣れた手付きで結び、襟を直してスーツのジャケットを取る。チャリンと、金属の擦れる音はこの家の鍵だ。バタバタとする足音をさせ、洋兵は要に一瞥もくれず玄関を開けて出ていってしまった。
要はフローリングに転がったまま洋兵の出ていった玄関を見ていた。

いつから、こんなにも遠くなったのだろう?
いつから、洋兵は変わったのだろう?
いつから自分は駄目になってしまったのだろう?

洋兵との昨夜の行為も、いつ終わったのか要は記憶にない。ただ分かっているのは、要を無理矢理犯した後、洋兵はきっちりと風呂に入り自室で眠ったということ。
ーー朦朧としてたしなぁーー
そう思うと可笑しくて、でも痛みでうまく笑えなくて要はただ顔を歪ませただけだった。

「俺も……仕事……」

要は力なく呟いて、軋む身体をのろのろと起こす。
ふわりと朝の風が頬にあたり、開けっぱなしだった窓に気が付く。生地の薄い遮光カーテンが風に揺れて、その隙間から陽射しが零れていた。
疲弊しきった身体は震えて上手く四肢に力を込められず、要はその場に崩れるように倒れた。その衝動で下半身に少し力が入ったのか痺れが走り、後孔からドロリと流れた体液に悍気る。

「あー、もうなにやってんだ俺……」

自嘲の言葉に涙が溢れる。泣きたくはないのに、どうしても止められなかった。

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