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ただ、笑った (リンレン:悪ノ シリーズ)


まぬけ。


まず最初にこう思った。


「さっさと牢に入れ」
「‥‥‥」


大丈夫だなんて言ったけど、実際の所生活やなんかで双子だって外見は変わる。しかも、性別まで違うのに。


「処刑の時刻は午後三時だ。それまでせいぜい後悔でもしていろ」


乱雑に牢に入れられた。この牢は小さな窓があり、そこから柔らかな夕日が差し込んでいる。その光に若干見とれながら、俺は興味無さげに、


「‥‥今まで私の政治に反対意見なんて言わなかったくせに。こういう時だけ下人扱いするなんて、全く品がないわね」
「なんだと!?」


いきなり胸倉をつかもうとしてくる騎士。
おいおい、いくら何でも相手は14の女だぞ?大人げないにもほどがある。


「反対したら殺されるとでも思っていたの?度胸の無い人ね。」
「貴様‥‥ッ」
「それより放しなさいよ。レディの胸倉をつかむなんてどんな教育を受けたの?」


突き放すように、捨てられるように押され、尻餅をつく。それと同時に、バレなくてよかったと思った。
その後、騎士は痰でもはいていくようにして去っていった。

午後三時‥‥‥っていっても、ここに時計なんて無いんじゃないか?と思ったとき、手元に小さな時計を見つけた。きっと入れられたとき、同時に投げ込まれたのだろう。


「(‥‥‥暇だな)」


する事と言えば、ぼうっと陽の光を眺める事くらいだろう。


『せいぜい後悔でもしてろ』


さっきの言葉が、頭を過る。

後悔?する訳が無いだろう。
俺はリンじゃない。
俺は王女じゃない。

でも、俺はリンと同じ。

同じ血を引いている。だから、リンが俺の分も楽して生きて、俺がリンの分の罪を滅ぼす。
恐怖なんて物は一切感じない。リンの為だけに生きていた。生みの親の為でも、育ての親の為でも、国民の為でもない。リンの為。

そのリンの為に死ねるなんて、名誉な事じゃないか。


「(でも、もし生まれ変われたら‥‥‥リンと双子がいいな。)」


また一緒に、今度は上下関係じゃなくて平行な、平等な関係で、どーでもいいような事で笑って、怒って、笑って‥‥。
ハッ、と我に帰る。
そんな夢みたいな世界が、そんな調子のいい世界が、自分たちの為に回るような世界がある訳が無い。


「(見るだけ虚しい夢だな‥‥‥)」


暇な時ほど時間は長く感じられる。
その晩は、ぼやっとした月をしばらく眺めた後、最後の睡眠を取った。

最後の夢は、妄想と言えそうなくらい自分に優しすぎる夢だった。
















「早く歩け」


くぼみのある木の板に手と首をはめ、その上に同等の板を合わせ鉄の留め金をつけられた。
布の擦る音の次に現れたのは包丁よりも、斧よりも鋭利そうなギロチン。周囲がざわざわする。バカだなあ。お前達が見ているのは王女様じゃないんだぜ?


「‥‥‥‥リン?」


思わず零した名前。
フードをかぶって顔を隠しているが、間違いなくリンだ。
今にも泣き出しそうな顔で、今にも自分が王女だと叫びそうな顔をしていた。

だから俺は、笑った。ただ、笑った。
どうせ見られるなら、最後は笑っていたい。


もうすぐ鐘が鳴る。
最後に、こう言おう。きっとこういえば誰もわからない


「あら、おやつの時間だわ」


人々は、ああやっぱりあの王女だもの。最後の最後まで傲慢な王女様なんだ。などと言っている。

その最中、合図があったようだ。
ギロチンが下ってくる音が聞こえる。

声にならない声を、声にならない悲鳴をリンが上げた。
俺は、心の中で、




『また会えたら遊んでね』




なんて言った。


ただ、笑いながら。
リンの頬を、涙が垂れた。
それでも俺は、


ただ、笑った。















***あとがき**********

悪ノ召使のレンは男前すぎると思う。

召使きいた後娘きいて、牢の中でどう
思ったんだろーなーって思って書いた
んですけど、口調とか会ってんのかな
あ‥‥‥。ちがったら召使だし!って
ことで。

読破感謝です!


090325 藤城喜屋武
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