色彩繚乱
1亜樹視点
(亜樹視点)
帰りたい。何処かはわからないけど此処ではない何処か。物心がついてから漠然と感じている。どうしてこんなふうに思うんだろう?
俺の名前は宇佐木亜樹。19歳。フリーター。この街にやってきた理由は何となく頭に浮かんだから。マンションを選んだ理由も何となく此処が良いと思ったから。この曖昧な何となくを実行しなければ良かったと走りながら後悔した。
「…っと交番まで来たけど、追い掛けて来ないみたい。」
はぁ…良かった。てか、全然、良くない!俺、あの眼帯の横に住むんだ。あの時、何で触っちゃったんだろう。俺の馬鹿、馬鹿。って悔やんでも遅い。契約しちゃったし保険金無駄に出来ないしバイト決めちゃったし。でもアイツ、ヤバいよな。やっぱ地元に帰ろうかなぁ。
去年、母親と父親が懸賞で当たった旅行先で事故に遭い他界。その事実を受け入れられず高校卒業後、受かった大学にも行かず引きこもってた。心配した友達が代わる代わる来てくれて嬉しかったけれど帰ったあとは寂しくて堪らなかった。
俺に兄弟がいれば…とかペットを飼っていれば…とか彼女がいれば…とか心の支えがあれば俺はこの家に住むことが出来たと思う。だけど現実は厳しくて辛くて思い出が多すぎて。で、思い立った。心機一転しようと。しかしこれが間違いだった。いや、間違いというレベルじゃない。ハッキリ言って俺は天に見放されている。この歳で天涯孤独。1人で生きて行こうと思った矢先にこの仕打ち。あんまりじゃない神様?俺に何の恨みがあんの?
「って嘆いても仕様がない。とりあえず今日はネカフェに泊まって明日、バイト行って…それからまた考えよう。」
携帯でググりネカフェに入って横になった。あぁ…ベッドでゆっくり寝たい。
次の日、寝不足と心労がたたったのか失敗の連続でバイトは初日でクビ。
「俺ってばとことんツイてない。」
どんより気分でマンションに向かう途中、俺の前に黒い人影。街灯もない暗がりで微動だにしない。都会は危ない奴が多いから目を合わさないよう道の端っこを歩いて通り過ぎようとした。
「おい。」
「ひっ!?」
唐突に呼び止められ心臓が口から出そうになった。
「俺だ。」
聞き覚えのある声。一度耳にしたら忘れない。俺は咄嗟に逃げようとした。
「逃がさない。」
「っ!?」
か、身体が動かない!?
「迎えに来た。」
俺を?何で?
質問したいけど口まで金縛りにあったみたいに動かせなくて男を凝視すると眼帯を取った。
「っ!?」
その瞳は赤く煌めいていて俺は目を見開いた。
「コウ、感じるか?」
コウ?コイツの他に誰かいるのか?
「…そうか。解った。」
男はニヤリと笑うと漆黒と深紅の瞳で俺を見据えた。怖い…怖くて堪らない。
「そう怖がるな。苛めたくなるだろうが。」
不意に両手を後ろ手に掴まれ片手で首を締められた。ウ、ウソだろ!?殺す気か?
死にたくなくて、もがいたら更に力を込められた。
く、苦しい。なんで俺がこんな目に…
「ふっ。気を失えば楽になるぞ。」
息ができない。酸素が足りない。
もぅ…ダメだ。
遠のく意識の中で見上げた満月がやけにまぶしかった。
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