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色彩繚乱
4完
余力があれば空間移動くらい容易いがそれすらもなく。龍王ともあろう者がなんと嘆かわしい。自己嫌悪しながらタクシーを拾い邸宅に戻った。

「兄上、只今、戻りました。」

軽く頭を下げるといきなり龍生からパソコンと鍵を渡された。

「3日後にお前が赴任する学園の資料が入っている。学園の近くにマンションを借りた。其処から通勤しろ。」

俺に向かって尊大な言い方をするのはコイツだけだ。俺を産んだ女は死に九重の当主は5年前に他界。故に九重の当主は嫡男、九重龍生。俺にとっては目障りこの上ないがマンションを借りてくれたことに対しては誉めてやろう。

「解りました。明日、其方に移ります。」

「ところで類に会ったか?」

「否。警戒されると困りますので。」

「賢明な判断だ。しっかりやれ。」

「はい。」

自室に戻り必要な物だけ鞄に詰めパソコンを開き情報を頭に入れ就寝した。

翌日。早速、マンションに赴き部屋に入った。

「…狭い。」

海外のマンションが広々としていたからか2LDKは窮屈に感じたが生活必需品は揃っており配慮がうかがえた。家電は勿論、食器棚に食器、書棚に専門書、バスルームにタオル、棚に洗剤。無いのは食料ぐらいだ。龍生にはこういうところある。だから部下に慕われるのだろう。

「ったく…抜け目のない奴だ。」

『あの方なりの愛情表現なのでしょう。』

『気色悪いことを…起きたのか?』

『ええ。ソウとアオイはまだ回復していませんが。』

『お前が使えれば問題ない。』

『有り難きお言葉、傷み入り…彩王、妙な気配を感じます。気を付けてください。人間ではありません。』

この星に飛来して以来、曖昧な言い方をしたことがない紅龍が戸惑っている。

一体、何が…

ピンポーン♪

突然、チャイムが鳴り紅龍の緊張が俺にも伝わった。物の怪や魔物の類かもしれない。そんなモノが存在するのか解らないが攻撃体勢を取りつつドアを開けたら若い男が立っていた。

「こんにちわ。」

見上げる男と目が合った瞬間、身体中が脈打った。

な、何だ!!?

「隣に越してきた宇佐木です。ご挨拶に伺いました。これ、つまらないものですが、どうぞ。」

差し出された箱を受け取れないほど身体が震えた。

『さ、彩王…これは…』

紅龍の声も震えていた。こんな感覚…初めてだ。
魂がこの男に共鳴して歓喜の雄叫びを上げている。

「あ、あの…具合、悪いんですか?」

「えっ?」

「涙が…」

「涙?」

俺を見詰めるその瞳は吸い込まれそうなほど黒く光り輝き俺を高揚させた。

「大丈夫ですか?」

そっと手を伸ばして俺の頬を撫でた。刹那、雷が身体を貫いたような衝撃に俺は思わずその手を握り締めた。

「なっ、何を…」

「…見つけた。」

自然に涙が出たのは魂が感涙したのかもしれない。俺は握った手を頬に当てた。こんなに近くに俺の半身がいたとは。神祇を恨んだこともあったがこの采配に感謝した。

「ち、ちよっ…離してください!!」

「離すものか。お前は俺のモノだ。」

「はぁ!?アンタ、頭、可笑しいんじゃないか!?」

掴んだ手を振り放そうとする男は俺を拒絶する。
こんなにも惹かれ合っているというのに何故だ?

「俺のことが解らないのか?」

「何、言ってんだ!?俺はアンタなんか知らない!」

「知らないだと?」

「そうだよ!!会ったのも今日が初めてだし変な言いがかりをつけんなっ!!」

怒鳴る男に唖然としていたら弁慶の泣きどころを思いっ切り蹴飛ばされ痛みに手を離した隙に逃げられた。

「くっ…俺に楯突くとは…許さん。捕まえて躾なおしてやる。」

『彩王、落ち着いてください。』

『落ち着いてやれるか!


『彩王、今のは何じゃ!?』

『僕もビビッっときたにゃん!』

ソウとアオイも騒ぎ出したがそれどころではない。今すぐ…

『彩王、お待ちください。私に考えがあります。』

『考えだと?』

『ええ。お任せください。』

自信満々な紅龍に俺は高ぶった感情を落ち着かせた。紅龍は俺の右腕。これまで一度たりとも仕損じたことはない。故に絶対的な信頼を寄せている。

『よかろう。好きにしろ。』

『最高の舞台をご用意しますので期待してください。』

紅龍の弾んだ声音は俺の胸を踊らせた。最高の舞台か。楽しみだ。待っていろ。必ずお前を俺のモノにしてやる。


次回は亜樹視点です。

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あきゅろす。
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