色彩繚乱
11完
夜の繁華街は仕事帰りの輩で混雑していた。人混みに紛れた溝口の手下がいるかもしれないというのに亜樹は繋いだ手を気にして何度も離そうとした。
「いい加減にしろ。」
「サイは恥ずかしくないのか?」
「言ったはすだ。溝口に仲間がいると。」
「え!?そうなの?」
「言わなかったか?」
「初耳なんだけど。」
言い忘れていたらしい。朝の会話を簡潔に伝えた。
「何人いるか解らんが用心に越したことはない。」
「…外も危険ってことか。」
ポツリと呟き握った手に力を込めた。
「恐れるな。俺がいる。」
見下ろし頭を撫でたら見上げて微笑んだ。亜樹が笑うと心に春風が吹き怒ると木枯らしが吹く。故に何時も笑っていて欲しいと思うが中々上手くいかない。
「何処か行きたい場所はあるか?」
「うーん…あ、書店。コウが買ってきた漫画の続きが読みたい。あとスーパーで食料を買いたい。」
亜樹の要望に応え書店とスーパーに行き買い物をした。
「サイ、沢山、買ってくれてありがとう。」
これくらいで笑みとお礼が貰えるなら幾らでも買ってやる。
「他に欲しい物があれば言え。高価な物でも構わん。」
「高給取りは言うことが違うなぁ。じゃ、ドーナツと鯛焼きが食べたい。買ってくれる?」
「お安いご用だ。」
「こっちだよ。」
行きしなに見ていたのだろう。手を引かれ店に入りドーナツと鯛焼きを購入した。
「気は済んだか?」
「うん。」
「では戻るぞ。」
両手一杯の袋を携え歩いて帰るのは面倒くさい。
人気のない路地に入ると瞬間移動でマンションに帰った。
「相変わらず便利な能力だよな。龍国の人も使えるのか?」
食材を冷蔵庫に入れながら尋ねた。
「否、王と眷属のみ。災いから民を護り争いのない世界を維持する為に与えられた力、それが龍力だ。そして龍力の源がお前だ。万が一、溝口の手に落ちればこの星の未来はないだろう。」
俺の言葉は亜樹を震撼させた。
「も、もし俺が捕まったら悪用され用済みになったら殺されるのか?」
青ざめた顔面をそっと撫で小刻みに震える身体を抱き締めた。
「案じるな。そんな真似は絶対させない。」
「サイ…」
俺を捉える漆黒の双眼は照明の光を星に変えキラキラと瞬き息をするのも忘れるほど見惚れてしまう。お前は俺だけのモノ。奪う者は葬る。この手を血に染めようとも。俺達の還る処は龍国だ。今は結界に気を取られ白龍石を探す余裕はないが必ず見つけ出し生還する。それが俺に課せられた使命であり転生に失敗した俺の負うべき責めなのだ。
次は亜樹視点。
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